「女のくせに」と見下す先輩の言葉に耐えていると、苦手なイケメン社員が庇ってくれた!?/恋より仕事と決めたけど⑦

文芸・カルチャー

公開日:2025/2/28

恋より仕事と決めたけど』(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)第7回【全11回】

「可愛げがない」とフラれ続けた神崎志都(かんざきしづ)は、恋は諦めて独身謳歌のため仕事に邁進中。しかし志都が最も苦手な人たらしの爽やかイケメン・真城昴矢(ましろこうや)とご近所になってしまう。その上、仕事で支えてくれる甘やかし上手な昴矢にタジタジ。これは恋まであと一歩!? 恋愛小説レーベル「ベリーズ文庫with」から刊行の焦れキュンオフィスラブストーリー『恋より仕事と決めたけど』をお楽しみください!

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『恋より仕事と決めたけど』
(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)

「お手数おかけしてすみません」

「気にするなよ。朝のお礼もまだだったし」

「朝のお礼……?」

 私、なにかしたっけ?

「営業部の女性陣に囲まれて出かけるタイミングをすっかり失っていたところを助けてくれただろ」

「あぁ……。あれくらい、お礼してもらうほどのことじゃありません」

 言われるまで忘れていたくらいの出来事だし、私は自分のために動いただけだ。

「だったらなおさら感心する。とくに意識せず、自然と人を助けられるってことだ」

「お、大袈裟です。営業トークは取引先だけにしてください」

「思ったことをそのまま言っただけなんだけど」

 真城さんが快活に笑って目を細める。その笑顔も人の懐にスッと入り込むようなセリフも、すべてが完璧すぎて眩しい。彼が出世街道まっしぐらと言われている理由がわかる気がした。家柄や生まれつきの容姿は別としても、彼には人より秀でた部分が多すぎる。

 軽い敗北感を覚えつつオフィスに戻ると、ちょうど帰ろうとしていた針ヶ谷さんとバッタリ鉢合わせた。私と真城さんをジロジロ見比べた彼は、フンと鼻を鳴らす。

「へえ。男のことはもれなく見下しているのかと思いきや、真城のようなイケメンエリートには平気で媚びるんだな」

 ……どうやら彼は、私のいないところで悪口を言うだけでは気が済まないようだ。

 反論したいのに、唇を噛んでパッと目を逸らすことしかできない。

 私は誰かに媚びるなんて行為、むしろ嫌いなのに……説明してもきっとわかってもらえないだろうと思うと、悔しさで体が熱くなってくる。すると、真城さんがスッと針ヶ谷さんと私の間に入った。

「彼女がいつ誰に媚びたって? 勝手な憶測で失礼なことを言うな」

 真城さん……。

 まさか彼に庇われるとは思わず、彼の背中を見つめて目を瞬かせる。

「なんだよ真城。すっかり手懐けられてんじゃん」

 真剣に怒ってくれている真城さんに対し、針ヶ谷さんの人を馬鹿にしたような態度は変わらない。彼らは同期入社だが、とくに親しいわけではなさそうだ。

「勘ぐったような言い方をするのはやめろ。資料を持つのを手伝っただけだ」

「だから、神崎にそう仕向けられたんだろ?」

「どうしてそうなる? これは俺が自主的に――」

 真城さんはなおも反論してくれようとしていたが、針ヶ谷さんはどうあっても私を悪く言うのをやめないだろう。少しでも味方をしてもらえただけで精神的に救われたし、これ以上彼に迷惑をかけたくない。

 私は真城さんの背後から飛び出し、針ヶ谷さんを睨みつけた。

「見下されたくないのなら、それ相応の仕事をしてください。今朝、私が声をかけた時、スマホでゲームをしていましたよね?」

「……は? いや、なんだよそれ」

 半笑いで否定しつつも、目が泳いでいる。無意識だろうがスラックスのポケットに入れたスマホにも触れていて、心当たりがあるのは明白だった。

 どうしてこんな人に馬鹿にされなきゃいけないんだろう。私は真面目に仕事をしているだけなのに。

「それと、大切なお得意様である『残照』で、店を貶めるような発言をしていたそうですね。会社全体の信用問題に関わりますから、今後そういうことは控えてください」

 悔しげに表情を歪める彼が今なにを思っているのか、手に取るようにわかる。

 〝コイツ、女のくせにかわいくない〟だ。

 でもこっちだって、かわいいだなんて思ってもらえなくていい。これくらいで泣きごとを言っていたら、この先ひとりでやっていけない。誰にも頼らず自分の足でしっかり人生を歩んでいくために、どんな時も強い私でいなくては。

 絶対に負けないと表明するように針ヶ谷さんをジッと見つめていると、彼はふいと目を逸らし、真城さんにへらへらと笑いかけた。

「ほら、神崎って怖ぇだろ。こっちが本性なんだ。お前も気をつけろよ」

「余計なお世話だ」

 真城さんがそっけなく返すと、さすがに居たたまれなくなったらしい針ヶ谷さんがそそくさと営業部を出て行く。私はようやく肩の力を抜き、ため息をついた。

「大丈夫か? もしかして、元気がないように見えたのも針ヶ谷が原因? 得意先に失礼なことを言ったようだし……」

 心配そうに顔を覗いてくる真城さんに、どきりとする。資料室で聞かれた時には否定したはずなのに、落ち込んでいるのがバレバレだったらしい。

 それでも、これ以上彼に迷惑をかけるわけにはいかないと、真城さんの手から奪うようにファイルの束を受け取った。

「否定はしませんが、私なら大丈夫です。くだらない言い合いに巻き込んでしまってすみません。お手伝いしてくださってありがとうございました」

 これ以上突っ込まれないよう、笑顔を取り繕う。真城さんは少しの間黙って私を見つめていたけれど、深く追及はされなかった。

「どういたしまして。今からこれ全部読み込むのか?」

「全部ではありませんが、できるだけ情報は多い方がいいと思っています。うちが扱う国産ワインに興味を示してくれた和食レストランがあるんですが、なんとしてでも新しい取引先になってもらいたいので、気合いを入れてPR用の資料を作るつもりなんです」

 プライベートな心の内を明かすのは苦手だが、仕事の話をするのは楽しい。ファイルを抱えて微笑むと、真城さんも納得したように頷いてくれる。

「うまくいくよう祈ってるよ。しかし今からじゃ、かなり残業になりそうだな」

「慣れてますから大丈夫です。では、仕事に戻ります」

 真城さんにぺこりと頭を下げ、定時を過ぎて人の減ったオープンスペースへファイルを運ぶ。それからパソコンを開くと、軽く自分の頬を叩いて活を入れた。

 落ち込んだ気分を引き摺らずに済んだのは、たぶん真城さんのおかげだ。

 彼が同じマンションに引っ越してきたと知った時は正直『げっ』と思ってしまったし、苦手意識も完全にはなくなっていない。

 でも、なんとなく、彼の優しさには裏表がないような気がする。おかげでいつもの調子を取り戻せそう。

 チラッと彼のデスクを見やると、真城さんも真剣に仕事に戻ったところのよう。

 ありがとう、真城さん。

 心の中だけでそう呟くと、私はさっそく大量のファイルと格闘を始めた。

<第8回に続く>

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