クマ柄部屋着にクマ耳パーカー。会社と正反対の格好をイケメン社員に見られた!/恋より仕事と決めたけど⑪

文芸・カルチャー

公開日:2025/3/4

恋より仕事と決めたけど』(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)第11回【全11回】

「可愛げがない」とフラれ続けた神崎志都(かんざきしづ)は、恋は諦めて独身謳歌のため仕事に邁進中。しかし志都が最も苦手な人たらしの爽やかイケメン・真城昴矢(ましろこうや)とご近所になってしまう。その上、仕事で支えてくれる甘やかし上手な昴矢にタジタジ。これは恋まであと一歩!? 恋愛小説レーベル「ベリーズ文庫with」から刊行の焦れキュンオフィスラブストーリー『恋より仕事と決めたけど』をお楽しみください!

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『恋より仕事と決めたけど』
(宝月なごみ:著、大橋キッカ:イラスト/スターツ出版)

 その日は帰宅後に五キロのランニングをして、一度シャワーを浴びてから近所のコンビニでお酒を買った。昼間の試飲会では安くない高品質のワインを勧めておきながら、自分のために買うのはごく普通の缶ビール。

 ひとり暮らしではワインを買っても飲みきれないし、仕事の後はやっぱりビールの喉越しと爽快感が欲しくなるんだよね……。

 腹ごしらえに少量パックのサラダと六個入りの冷凍餃子も購入し、エコバッグを片手にほくほくしながら自宅マンションへと戻る。

 エントランスの自動ドアから中に入ろうとしたところで、ちょうど飛び出してきた女性とぶつかってしまった。というか、向こうからぶつかってきた。

「わっ」

「す、すみません……!」

 慌てた様子で頭を下げたのは、すっきりと耳を出したショートヘアの美人だ。

 思わずドキッとしたのは、彼女が泣いていたからだ。

「あの、大丈夫ですか――」

 尋ねる途中で、女性はペコッと頭を下げて走り去ってしまう。

 なんだか急いでいるみたい……。

「……あれ? 神崎さん」

 自動ドアは閉まってしまったものの、女性が去った方に首を向けたままでいたら、今度は見知った人の声がした。

「真城さん、こんばんは」

 鉢合わせた彼は、ノーネクタイのシャツにスラックス。彼もこれからコンビニにでも出向くのかもしれない。

「今帰り……なわけないか。なんか雰囲気違うし」

「えっ? あっ……」

 自分の格好を見下ろした瞬間、頬がじわじわ熱を持つのがわかった。

 よりによって、千笑ちゃんにもらったルームウエア姿で彼に会ってしまうなんて。シャワーの後だし、コンビニに行くだけだからと思って油断した……。

 すとんとしたワンピースタイプのルームウエアはテディベア柄。防寒のために羽織ってきたもこもこのパーカーにもクマの耳がついているなんて、普段の私のイメージとかけ離れすぎているだろう。

「そういうの、好きなんだ。意外」

 上から下までじっくりと観察した真城さんが、そう言って目を丸くしている。

 あまり見られたくないからフードで顔を隠したいのに、クマ耳のせいでファンシーな見た目になるのが不本意で、俯くしかない。

「ご、誤解です。この服、弟のお嫁さんがプレゼントしてくれたものなので、自分の趣味ではないのに捨てられなくて」

 悪者にしちゃってごめん、千笑ちゃん……。緊急事態だから許して。

 心の中で義妹に手を合わせていると、真城さんが納得したように微笑む。

「なるほど。ちゃんと着てあげるところが神崎さんらしい」

 その場しのぎの嘘だったけれど、信じてもらえてホッとする。

 本当は等身大のクマのぬいぐるみを家に置いていて、話しかけたり抱きついたりしているなんて、会社の人には絶対に知られたくない。

「ですので、あのかわいげがないで有名な神崎が家ではクマ柄の部屋着を着ている、という事実は、どうか真城さんの胸の中だけで留めておいてください……」

「有名って。そんなこと言ってるの、針ヶ谷だけだろ」

「目立って聞こえてくる声はそうですけど……内心思っている人は多いと思います」

 以前、針ヶ谷さんと一緒になって後輩たちまで私を馬鹿にしていたし……。

「ふうん。多いってどれくらい? ちなみに、俺は思ってないけど」

 ただの世間話にそこまでのデータを求めないでほしい。

 あくまで感覚の話だから、営業部のうち何人が私を煙たがっているかなんて、わかるわけがない。それに、もう何度も〝やめて〟とお願いしている営業トークを、懲りずに繰り出してくるのも困る。

 私を褒めてもなにも出ませんけど!?と、いつも心の中で叫ぶ羽目になる。

「そ、それはどうも。あの、真城さんお出かけするところでしたよね? お時間大丈夫なんですか?」

 私は話を逸らす作戦に出た。面倒なやり取りを避けるために、かわいげがどうのという話は、彼の前であまりしないようにしよう。

「いや、別に出かける予定はないよ」

「えっ? でも、じゃあどうしてこんなところに」

 率直な疑問をぶつけると、真城さんは珍しくパッと私から目を逸らし、気まずそうな顔をした。

 もしかして、聞いちゃいけないことだった?

 そう思った直後、頭の中にさっきぶつかった女性が像を結んだ。

「さっきまで来客があって、見送ろうとしてたんだ。もう帰っちゃったみたいだけど」

 来客……見送ろうとしたのに帰ってしまった。ってことは、彼女の涙は真城さんが原因? あの女性、真城さんの隣に並んだらすごくお似合いそうだったし、もしかしてそういう関係なのかも。だとしたら、私を相手に営業トークをしている場合ではないではないか。

「追いかけなくていいんですか?」

「追いかける? いや、向こうが急に押しかけて来ただけだし、そのくせ俺の話をちゃんと聞かずに帰ってしまったんだ。頭を冷やすためにも、ひとりにさせた方がいいと思う」

 真城さんはふっと苦笑すると、私に背を向けてエレベーターホールの方へ向かっていく。まるでこれ以上の追及から逃れたいみたいだ。

 見た目が極上で、内面にも人を惹きつけるものがある真城さんがモテるのは自然の摂理のようなものだろうけれど、泣いている女性に対してその言い草……ちょっと薄情すぎやしないだろうか。

 仕事の面では尊敬できる人だけど、女性関係は要注意……?

 心の中で彼に対する認識を改めつつ、その背中をジッと睨みつける。すると、視線に気づいたかのように真城さんが突然振り向いたのでドキッとした。

「そういえば聞きそびれてたけど、目黒の和食レストラン、どうだった?」

 屈託なく尋ねてくる彼はもういつものキラキラした真城さんで、なんとなく毒気を抜かれる。

 たとえ彼が女性泣かせの人物だったとしても、同僚として付き合うぶんにはあまり関係ないか……。

 仕事の件を報告すると約束していたのに忘れていた負い目もあって、慌てて彼のもとに駆け寄る。そして部屋に戻るまでの間、試飲会についてのあれこれを真城さんに話して聞かせるのだった。

<続きは本書でお楽しみください>

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