クロちゃん、ドッキリで「あきらめない心が培われた」 小説家としてのデビュー作『クロ恋。』執筆の裏側【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/2/18

クロ恋。クロちゃん/双葉社

 お笑いトリオ・安田大サーカスのクロちゃんが、処女作となる恋愛小説『クロ恋。』※(双葉社)で小説家デビューを発表。1月28日に記者会見を行なった。
※2025年3月19日(水)発売

 人気バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)では幾度となくドッキリを仕掛けられ、直近ではプロポーズ失敗の放送回も話題に。テレビでは打ちひしがれる表情をイジられる場面も多々みかけるが、小説家として話すその表情は真剣だ。

 アイドルグループ「豆柴の大群」ではプロデューサーとして作詞も手がけるクロちゃんは、創作といかに向き合っていたのか。もはや“十八番”ともいえるドッキリの裏側などと合わせて聞いた。

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■手元に残る“163万4000円の婚約指輪”を見ながら血の涙を流して執筆

――この度は(『クロ恋。』の出版)、おめでとうございます。

クロちゃん え…!? ああ、出版の話ですよね。リチにフラれたのを、イジられたのかと(笑)。

――(笑)。小説では恋愛=実験と信じる大学生が繰り広げる異様な恋の物語『恋愛博士の異常な愛情』、人類滅亡の日に動き出す想いが切ない『地球最期の日』、男子2人・女子1人の幼馴染が織りなす奇妙な三角関係『揺れる』、勇者を目指す高校生の衝撃の出会い『Lv.17の勇者』と、4つの恋愛短編を収録。それぞれ男性と女性、どちらの視点で描かれたのでしょう?

クロちゃん 『地球最期の日』だけは女の子が主人公で、他の3篇は男性が主人公ですね。ただ、『揺れる』に関しては、章ごとに主役が入れ替わり同じストーリーを語るような作りにしています。2月に出版のお話をいただいてからスマホで少しずつ書き進めて、約1年で完成しました。当初はリチとの交際中に執筆していたんですけど、フラれちゃったので…。1篇だけはフラれたあとで163万4000円の婚約指輪を見ながら、血の涙を流しながら書きました(苦笑)。

――その顛末は『水曜日のダウンタウン』(以下、水ダウ)で放送されていましたね。じつは先ほど「男性と女性、どちらの視点で描かれたのでしょう?」と聞いたのも、それに関わっているんです。プロポーズを断られたリチさんに日頃の態度をダメ出しされたクロちゃんが「どうして言ってくれなかったの」と食い下がっていて、恋愛に対する男女差が表れていたように見えました。

クロちゃん 放送後のSNSを見て、僕も思ったんですよ。大半は「クロちゃんが悪い」という意見でしたけど、少数派ながらも「クロちゃんの気持ちがわかる」という男性からの意見もあって。先日、大阪で営業へ行ったときもファンの方とのツーショット撮影で男性から「クロちゃん、間違ってないですよ」と言われました。どうやらその方の奥さんは「リチさんが正しい」という意見だったようで、意見の食い違いによる夫婦喧嘩が収まらなかったから「1人で来ました」と言われて、それだけは申し訳なかったです(笑)。

――(笑)。男女の意識差を体感しながらも、小説の1篇『地球最期の日』はいわば女性の視点で描かれたと。物語の執筆中にはどのような思いがあったんですか?

クロちゃん 元々の性格が女性的だと自覚しているんですよ。過去の恋愛も引きずるし、カワイイものが好きだし、それを撮っているのも好きだし。今でこそお笑い芸人ですけど、芸能界に入ったのはアイドルになりたかったからで、松田聖子さんや柏原芳恵さん、酒井法子さんに憧れてもいたんです。松竹芸能に入ったのも「アイドル部」に応募したのがきっかけで、事務所のだましうちでお笑い芸人になったので(笑)。『地球最期の日』は、そんな何でも引きずってしまう本来の自分目線で書きましたが、意外と主人公はたくましくなっているかも(笑)。

■お笑い芸人としての自分とは違う「読者が共感してくれるものを」

――作家の方にお話を伺うと、自分の想像した作品を全力で書きたい方もいれば、いかに読者を喜ばせて売れるものを書けるかと考える方もいて。クロちゃんは、どちらの思いで執筆されていたのでしょう?

クロちゃん 最初は自分が書きたいものを書こうと思っていたんです、会見で話したように全編バッドエンドにしたいとか。日が経つにつれて読者の方に意識が向くようになって「共感してくれるものを描きたい」と変わっていきましたね。スマホで作品を書いていても、独りよがりで自己満足なままでいると、文字を打つ手が止まっちゃうんですよ。みんなが共感できるか、感動できるかと考えて、お笑い芸人としての自分とは違うイメージで書き上げられたとは思います。

――自己満足ではなく、読者のためにという姿勢が反映されている作品は?

クロちゃん キャバクラを舞台にした『恋愛博士の異常な愛情』は、自分の経験値から「もしもこうだったら…」と肉付けしていった作品ですけど、若い子たちは恋愛が苦手だと聞くし、僕自身が婚活のために通っているキャバクラに「興味を持ってもらえるなら」と思って描いた作品です。高校生が主人公の『Lv.17の勇者』は、僕の自身の青春と叶わなかった願望を詰め込んでいますね。

――読者のためにとの思いはもちろん、このインタビュー直前に行われた小説の出版発表会見でも記者からの質問に気さくに答え、会場をわかせるサービス精神を感じられました。テレビでも意識は変わらずでしょうか?

クロちゃん テレビだとドッキリを仕掛けられてばかりなので(笑)。長回しで隠し撮りされてるだけだし、スタイルは違うのかなと思います。でも、自分が今まで読んできた漫画、見てきたアニメの影響を受けているとは思います。

――例えば、心に残った作品は?

クロちゃん 漫画が多かったんですけど、例えば、新沢基栄先生の『ハイスクール!奇面組』からは個性的でも恥ずかしがらなくていいと学んで。あだち充先生の『ラフ』では、憧れていた男の先輩が交通事故をきっかけに優しくなくなってしまう展開でふと出てきた「自分に余裕がないから人に優しくできない」のセリフを見て、いかなるときも「人に優しくしたい」と思いました。僕にとってのバイブル、高橋留美子先生の『うる星やつら』は今でも読むと涙腺がゆるんじゃうんですけど、主人公のあたるに対するラムちゃんの純粋さを見て「人に気持ちを伝えるのは大事」と感じられたし、小説でもそんな思いを描きたいとは思いました。

■意外にもドッキリで「あきらめない心が培われた」

――テレビではドッキリに翻弄される姿が印象強いですが、小説をきっかけにお話を伺うと、創作と真剣に向き合っているのが伝わってきました。

クロちゃん プロデュースするアイドルグループ・豆柴の大群で作詞をするようになってから、変わったなと自覚しています。最初のうちは「どうすれば人の心に響くかな」と、何もわからないままもがいていたら、次第に新しく何かを生み出せるようになって。小説も、もがきながらではありましたが妥協せずに頑張ってよかったです。

――出版発表会見では『水ダウ』やリチさんとの顛末についての質問が飛び交っていましたが、それだけではない一面もこの記事を通して伝わればと思います。


クロちゃん フラれたばっかりだったし、興味を持ってくださる方がたくさん来てくれたのはありがたかったですよ。『水ダウ』やドッキリ自体は、ありがたいかといえばそうじゃないけど(苦笑)。でも、長回しで隠し撮りされながら何もしない人間だったら、使われなくなってしまうはずなので。何が起きているのかわからなくても、形がどうあれ区切りは付けようとはしてきましたし、あきらめない心はドッキリで培われたのかもしれません。

――日常でも疑心暗鬼になりそうですが、意外にもメリットはあったんですね。

クロちゃん ちっちゃい頃は困難があれば避けて、進んで傷つくのなら「やめた方がいい」と思っていたんです。でも、ドッキリが変えてくれたのはあって、面白ければ笑ったり、切なかったら悲しんだり、怖ければ怖がったりと、見ている人が純粋にそうなればいいとも思っているから。それは小説を書くにあたっても、変わらなかったです。

――酸いも甘いも経験してきたとは思いますが、人生では様々な経験が糧になるんだとハッとしました。

クロちゃん 面白いですよ。経験すればするほど、何かがプラスに積み重なっていくから。僕、血液型がA型なんですけど「A型は経験からしか答えを出せない」と言われるのが昔は嫌で、突拍子もないことができるイメージのB型に憧れていたんです。でも、お笑い芸人になってからドッキリとかプロレスとか、色んなことに挑戦して、引き出しが増えていくのがいつからか楽しくなって。今となっては「A型でよかった!」と思っています。

取材=金沢俊吾、文=カネコシュウヘイ、写真/三浦貴哉

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