オムライスに「付加価値」を付けるなら…? 就活やビジネスに役立つ、「差別化」ではない「付加価値化」というスキル《柿内尚文インタビュー》

ビジネス

公開日:2025/3/17

 編集者として10万部超えのベストセラーを60冊以上手がけながら、著者として『パン屋ではおにぎりを売れ』『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(共にかんき出版)、『このプリン、いま食べるか? ガマンするか?』(飛鳥新社)の3作を上梓、思考法や伝える技術、時間の使い方について分かりやすく解説してきた編集者・柿内尚文さん。

 そんな柿内さんが、新たに取り上げたテーマが「付加価値」だ。付加価値とは何か。どうすれば付加価値を生み出せるのか――。新刊『このオムライスに、付加価値をつけてください』(ポプラ社)に込めた思いを伺った。

世の中の「もったいない」を減らしたい

――『このオムライスに、付加価値をつけてください』というタイトルが印象的です。オムライスはお好きなんですか?

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柿内尚文さん(以下、柿内):もちろん好きです(笑)。自分が嫌いな食べ物をタイトルにするのは難しいですからね。僕は納豆が食べられないので、納豆をタイトルにすることはないと思います(笑)。

――今までの著作にもすべて食べ物の名前が入っていますが、こだわりがあるのでしょうか。

柿内:最初に書いた『パン屋ではおにぎりを売れ』という本が食べ物をタイトルにしていたことで、その後も食べ物シリーズが続く流れになりました。読者に認知してもらうために、親しみやすくイメージしやすいもの、ビジュアル的に可愛らしいものをタイトルにすることを意識していて。オムライスって、見た目も可愛らしく、食べると幸せになりますよね(笑)。

 本のタイトルを決めるときには、テーマに合った食べ物を選んで、どんなタイトルが人の心に引っかかるかを考えます。「なんだこれ?」と思ってもらえたり、関心を引きやすい言葉を組み合わせたりするようにしていく感じですね。今回は「オムライス」以外は、比較的ストレートな表現にしたのですが、「付加価値」というテーマが少しとっつきにくく、分かりにくいものなので、変化球すぎるタイトルにしてしまうと、本の内容が伝わりにくくなると考えたからなんです。

――「付加価値」をテーマに執筆しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

柿内:例えば、日常生活の中で、スーパーで買い物をして「この商品、すごくおいしいのに魅力が伝わってないな」と思うことがときどきあります。本でも、内容は素晴らしいのにその価値がうまく伝わらず、売れなかったケースをたくさん見てきました。世の中には、そうした「もったいない」ものが多くあります。

 商品やサービスだけではなく人にも当てはまることで、「自分には特別なものは何もない」と思っている人でも、他の人から見れば魅力にあふれていることがよくあります。ただ、それが本人にとっては当たり前すぎて、自分では価値に気付けていないんですね。

 そこで、本書の中では「カジュアル化」と呼んでいるのですが、「付加価値」という言葉をもっと一般的に使いやすくすることで、世の中の「もったいない」を減らせるのではないかと考えたんです。

――本の帯にある「役立つのは差別化ではなく、付加価値化」という言葉が印象的ですが、「付加価値化」と「差別化」はどう違うのでしょう?

柿内:マーケティングの世界ではよく「差別化」という言葉が使われていますが、本質からずれて使っているケースも多いと思うんです。

 例えば、日本の家電製品は、競合との差別化を追求するあまり、不要な機能を付けすぎてしまう傾向があると言われていた時代があります。あれはまさに「差別化」の思考ですよね。それでは、差別化はできても魅力にはなりません。重要なのは競合との差をつくることではなく、ユーザーにとっての価値を生み出すことなんです。

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