社会から取り残され、母親の介護に人生を捧げてきた少年。漫画から学ぶ「介護」と「認知症」の実情【書評】
更新日:2025/3/29
誰にでも起こり得ることで、決して他人事ではいられない家族の介護問題。もしかしたらそう遠くない未来、身近にいる誰かが認知症になり、介護を必要とするかもしれない。要介護者との暮らしは一体どのようなものなのか、介護者は何をすべきなのか。まずは漫画を通して、認知症や介護の実情を学んでみてはいかがだろうか。
お母さんのおむつを替えた日 ヤングケアラーの見つけ方

本来親が担うような家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども、あるいは若者のことを“ヤングケアラー”と呼ぶ。近年テレビや新聞などで取り上げられる機会も増え、急速に社会的関心が高まっているものの、その実態をいまひとつ理解できていない人はまだまだ多いはず。ヤングケアラーの何が問題なのか、それを知るための最初の一歩としてオススメしたいのが『お母さんのおむつを替えた日 ヤングケアラーの見つけ方』だ。
主人公の旭は、母親の花が37歳の時に産んだ子ども。父親は旭が3歳の頃に他界し、それからは花が自宅の土間でお好み焼き屋を経営しながら、女手一つで育ててきた。また彼女は不思議なことに神仏や先祖の声が聞こえる人でもあったため、友人や知人の相談に乗ることも多い。時には旭を連れて遠方の相談者のもとにも訪れるのだが、花が受け取る相談料はいつも必要最低限。家はずっと貧乏のままだった。
“家のこと”のために、林間学校も修学旅行も不参加。友達と気軽に遊びに行くこともできない。そうして家の中が世間から見えにくくなっていく中、15歳の時に花が倒れ、17歳から本格的な介護が始まった――。いつしか社会から取り残され、母親のケアに人生を捧げてきた旭。彼がどうやって自分の人生を取り戻すのか、ぜひその目で見届けてみてほしい。
認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実

認知症患者の家族を主人公にした物語は数多く見かけるが、それに比べて患者本人の視点を描いた作品はそこまで多くはないだろう。一体彼らが見ている世界はどうなっているのか、私たちが見ている世界と何が違うのか。『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(田口ゆう:原作、吉田美紀子:漫画/竹書房)では、そんな認知症患者の目線を垣間見ることができる。
物語は認知症患者の病名や要介護度ごとに描かれており、どのエピソードもオチはなく、あるのはリアルのみ。例えば第1話では、前頭側頭型認知症を患う70代男性が登場。突然女性のお尻を触ったり、店の商品を持ち出してしまったりと、事あるごとにとんでもない行動をとるのだが、実は彼の頭の中では常に「触れ触れ」「歩け歩け」「あの店からとってこい」などの声が聞こえていた。
病院へ行ってようやく前頭側頭型認知症であることが発覚するものの、男性と一緒に暮らす家族の不安は拭えない。ふと医者が「一生続くわけではありません」と切り出すも、それに続く言葉は「進行すれば徘徊はなくなります」「ある意味介護しやすくなりますよ」。この病気に回復はないのだと、認知症の現実を突きつけて物語は幕を下ろす。当事者たちの目線や感情をリアルに描いた同作は、いろいろと考えさせられるに違いない。
48歳で認知症になった母

「認知症」「介護」「ヤングケアラー」とひと口に言っても、当事者たちの置かれている状況は実に様々である。『48歳で認知症になった母』(美齊津康弘:原作、吉田美紀子:漫画/KADOKAWA)で描かれているのは、11歳にしてヤングケアラーになった著者の過酷な実体験の数々。今ほど要介護者に対して支援が十分ではなかった時代、若年性認知症の母親を支えてきた主人公の暮らしぶりを、ほぼそのままに描いたノンフィクションエッセイとなっている。
物語の主人公は、5人家族の末っ子に生まれた“やっちゃん”。年の離れた姉と兄、水産会社を経営する父親は顔を合わせる時間が少なく、家族の中で唯一母親だけがやっちゃんと共に過ごす時間が多い存在だった。いつも優しくて明るくて、自慢だったお母さん。そんな母親が48歳の時に若年性認知症を発症したことで、幸せだった日々が音を立てて崩れていく。
学校から帰宅すると、徘徊する母親を探して連れ戻し、うまくできない排泄の後始末を行う日々。会話も支離滅裂で、勝手に怒ったり泣いたり……。学校に行こうとすれば裸足で追いかけてきて、夜になると鏡に向かって独り言をブツブツ。あんなにも大好きだった母親に対し、やっちゃんは次第に怒りや悲しみを抱くようになる。読んでいて辛くなるような描写が満載だが、知らなかったヤングケアラーの実情を知ることもまた、誰かを救うための一歩になり得るかもしれない。
78歳母とブロガー娘の 今日からいきなり介護です

『78歳母とブロガー娘の 今日からいきなり介護です』(あぽり/KADOKAWA LifeDesign)は、「ライブドアブログ OF THE YEAR」の2019年グランプリ、そして2021年には読者賞を受賞した大人気ブロガー初の書籍となるコミックエッセイ。ある日突然倒れ、寝たきりになった78歳母親の介護に奔走するリアルな日常を描いた作品で、いざというときに備えて知っておきたい介護の基礎知識も満載だ。
例えば著者自身が実際に直面したという、退院後の住まいの問題。病院の決まりで彼女の母親は入院後60日で退院しなければならなかったが、介護のために必要な家のリフォームは高額で、すぐどうこうなる話ではない。かといって介護施設の利用料も馬鹿にならず、安いところは10年待ち。退院の日が刻一刻と迫る中、著者を救ってくれたのは、病院に常駐していた「医療ソーシャルワーカー」だったという。
同作ではこの医療ソーシャルワーカーを含む医師や医療関係者、介護職の人たちそれぞれの役割と付き合い方、さらには頼り方まで説明されており、ネット上でも「すごく参考になった」「みんなに読んでもらいたい作品」などの反響が続々と寄せられている。おまけに介護をテーマにしながらそこまで話は重くなく、むしろ楽しく読める作風となっているので、「介護」の入門編としてもおすすめだ。
文=ハララ書房