クロちゃんワールド全開!クセ強な恋愛観から、切ない余韻が胸に染みる物語まで。個性あふれる恋愛小説集『クロ恋。』【書評】
PR 公開日:2025/3/27

芸人としての活動のみならず、アイドルグループ「豆柴の大群」のプロデュースも手掛けるなど、多方面で活躍中のクロちゃん。そんな彼が初の恋愛小説集『クロ恋。』(双葉社)を上梓し、小説家デビューを果たした。
4篇のラブストーリーを収録する『クロ恋。』では、クセ強な作品から切ない余韻が胸に染みる物語まで、バラエティに富んだ世界が展開されている。個性あふれる4篇をそれぞれ見ていきたい。
「恋愛博士の異常な愛情」は、“恋愛とは実験だ”という特異な恋愛観を持つ男の物語。大学生の青木は被験者と相思相愛になろうともくろみ、恋愛という名の実験を仕掛けていく。仮説に基づく青木の奇妙な行動は当初はウケて上手くいくものの、やがて被験者の心は別の男に移り、別れを切り出されてしまった。
この失敗以降、青木はますます恋愛観を拗らせ、社会人になって知ったキャバクラという巨大なラボを舞台に実験を繰り広げていくのだが――。当初の相思相愛になるという目的を見失い、莫大なお金と時間を実験に注ぎ込んで疲弊する姿は、なんとも滑稽だ。「実験を行う施験者」の自分は常に被験者より上の立場にいると思い込み、一方的なコミュニケーションを行う男の傲慢な姿を綴る、ビターな味わいの恋物語である。
続く「揺れる」は、保育園からの幼馴染のアキト・ナオキ・トモミの三角関係にフォーカスした青春小説。小学生の頃に起きたプール事故でナオキはトモミを助けるが、その手柄をアキトは横取りしてしまう。ナオキへの負い目を抱えつつ、高校生になったアキトはトモミに告白し、二人は付き合い始めるが……。物語はアキトからトモミ、そしてナオキへと語り手をスイッチしながら進む。視点が変わるたびに明らかになる隠された思いと、スリリングな読後感が印象的な一篇だ。
「地球最期の日」は、地球の滅亡という世界の秘密を知ってしまった少女の恋をリリカルに描く。両親が離婚した中学生のアヤは、父親とともに地方の学園都市に引っ越し、星が好きなミナトという少年と知り合い友達になった。二人は七夕の夜に地球に最接近するフェイト彗星を一緒に見る約束をする。ところがアヤは、フェイト彗星が地球に衝突するという極秘の予測結果を知ってしまい――。壮大な天体ショーと少年少女のピュアな恋を重ね合わせた、切なくも美しい佳作である。
最後の「Lv17の勇者」は、1999年7月に恐怖の大王が来るというノストラダムスの予言を信じ、自分は地球を救う勇者だと思い込む少年・黒澤の物語。高校生になっても自分を勇者だと信じてやまず、厨二病を拗らせた黒澤の姿はなんとも痛々しいが、彼はさまざまな挫折を経て突破口を見出す。青年の挫折と成長とともに、90年代の時代風俗を鮮やかに立ち上げる作品だ。
作者自身の実体験を下敷きにしたという四つの物語が切り拓く、ユニークな恋愛の世界。各篇の背後に見え隠れする、どこかエキセントリックとも思える人物描写には、作者のパーソナリティの奥底を覗き見るような、仄暗い感覚も覚える。それこそが、本書の真骨頂といえるかもしれない。クロちゃんファンのみならず、物語好きにもお薦めしたい恋愛小説集である。
文=嵯峨景子