トム・ブラウン布川ひろきのエッセイ連載「おもしろおかしくとんかつ駅伝」/第13回「北区十条」
公開日:2025/4/1

東京23区の中に北区という区があります。
北区は昔ながらの商店街がしっかりある所で赤羽があるのが北区だといえば全国の皆さんもなんとなくの雰囲気がわかるのかもなと思います。
その北区の中に「十条」という所があり、かれこれ10年はほぼ毎月行っています。
お昼はブティックショップをやっているお店の婦人服を物置きに入れさせてもらって夜にそこでライブをやっています。
だいたいお笑いライブは新宿、渋谷、池袋、中野等の主要の街でやっているのですが十条でやっているのはかなり珍しく恐らく僕らのライブメンバーだけです。
外を歩いているお客さんに
「無料でお笑いライブやっているのですがどうですか?」
等と声をかけて見てもらいます。
もちろんライブを見てくれない人が大半なのですが十条が他の街と違う所は十条の人は一旦話を聞いてくれます。
主要の街だと目を合わさずそのまま素通りか目を合わさず
「ごめんなさい」で大体終わりです。
もちろん仕方がない話なので腹立つとかいう気持ちはないのですが少し聞いてくれるだけで何か温かい気持ちがこちらにも残ります。
コンビニでお会計が終わって帰り際店員さんに
「ありがとうございます。」
ご飯を食べに行ってお店を出る時に
「ご馳走様でした。」
言っても言わなくてもいいのですが言われた側はなんか気持ちが良いものです。
それに近いようなことなのかなと思います。
つまりは「人情」がある街なのかなと思っています。
よく東京の人は冷たい、東京の人は他人に興味がない
等と言われてると思うのですが十条にそれを感じたことは1度もありません。
10年くらい前にこの十条のライブを始めたてで全員全く無名な中、1人のおじさんがライブを見てくれました。
そのおじさんはお世辞にもきれいな服装とはいえなく、英語でF○○○と書いてあるTシャツを来ていたので僕らは愛着を込めて
「F○○○さん」
と呼ばせてもらっていました。
F○○○さんは競馬が好きでいつも来た時には
「競馬帰りなんだよ。」
なんて言いながら毎月見に来てくれていました。
F○○○さんは
「競馬には勝ち方があって数字の計算でいけるんだよ。」
と、言って楽しそうにホワイトボードに数字を書いてくれたりしていました。(意味はわかりませんでした。)
しかし、ある時からF○○○さんは急に何ヵ月も来なくなり
「最近F○○○さん来ないなぁ」
なんて話していたら何の前触れもなくいきなり来てくれました。ライブ帰りに
布「お久しぶりですね!」
F「最近ちょっと忙しくてね。」
なんてお話をしてちょうど帰る方向が一緒だったので2人で一緒に帰りまして
布「仕事忙しいんですね。」
F「仕事というか、、、自宅で介護があってね。」
布「そうでしたか。じゃあ競馬できないですね。」
F「競馬はやってるよ。家に長く入れるから競馬にしたんだよ。」
驚きでした。
F○○○さんはただ競馬が好きでやってたのではなく介護があり家をあまり離れることができないから競馬で稼いでいたのです。
だからちゃんと勝てるように確率論を計算してやっていたのです。
概念を覆された感じがしました。
競馬をすごいやってる人イコールギャンブル狂いしているみたいなイメージがあったのですが人のために競馬をやっている人がいたのです。
激しく反省しました。
全然罪滅ぼしにはなりませんが
「F○○○さん。良かったら僕らの単独ライブに来てくれないですか?もちろんお代は入りませんので。」
快く返事をして下さりF○○○さんはまだ全然メディアに出させてもらう前の僕らの単独ライブに来てくれました。
単独ライブが終わり外で待ってくれていたF○○○さんに会いに行くといつもの
「F○○○」
のTシャツではなくスーツのF○○○さんでした。
僕らが気にするはずもないのですが僕らのことを考えてのその行動に頭が下がります。
談笑をしているとF○○○さんが
「これ、打ち上げに使ってよ。ライブのお金招待してもらったからさ。」
と、ポチ袋を差し出してくれました。
とんでもないと断りましたが1度出したものを引かせるのは失礼なのでありがたくちょうだいしました。
打ち上げの会場に向かう途中で中身を見せていただいたら
「3-5 1000円」
当たり馬券が入っていました。
なんてことだ。
しかも当たり金額を見たら2万円くらいはあり2000円の僕らのライブ金額どころではなかったのです。
なんて粋なことをしてくれるのだ。あまりにカッコ良すぎます。
人を見かけで判断するのは本当に良くないことだと改めて思わせてくれました。
それにより気付かせてくれた十条の街ありがとう。
ただ、F○○○さん。
白髪でハゲ散らかしてるのはまだしも
「F○○○」
と書いてあるTシャツ着てたらさすがに勘違いするよ。
なので今度会ったら
「FAX」
というTシャツをプレゼントしたいと思います。
<第14回に続く>