「つらい時はフィクションに逃げて」重版が決定した『#90秒で恋がしたい』の、大人になりきれない著者が語る10代の恋愛

文芸・カルチャー

公開日:2025/4/3

#90秒で恋がしたい空白代行/KADOKAWA

 2024年7月に発売された空白代行さんの著書『#90秒で恋がしたい』の重版が決定した。

 TikTokのフォロワー数12万人。儚げな風景の映像とともにキャプション欄を使って投稿される短い物語は、恋愛における奇跡のような瞬間や、小さなすれ違いで行き詰る人間模様などが鮮やかに語られる。本書には90秒程度で読み終えられるほどの短編が26本と、最後に中編小説も収録されている。読み終えた瞬間、あわててページを遡ってしまう仕掛けも隠されており、読書の楽しさを気軽に、かつ存分に味わえる作品だ。重版を記念し、空白代行さんに出版に至ったきっかけや、作品に込めた思いを聞いた。

――「空白代行」というお名前の由来を教えてください。

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空白代行さん(以下、空白代行):アルゴリズムに従ってゲリラ的に動画が流れてくる方式のTikTokは、YouTubeみたいに「この人の動画を見に行こう」と思うことが、滅多にないですよね。大体のアカウントは発信者を声や顔で覚えていると思うのですが、僕は文章で立ち止まってほしかった。そのためには特徴が必要だったので、句点「。」を使うことを止めました。奇妙な文章になるので覚えてもらえると思ったんです。代わりに空白にしたら読みづらかったので、更に代わりにアンダーバーを使うことにしました。そこで、「空白の代わり」にから「空白代行」という名前が生まれました。

――もともと小説家を目指していたのですか?

空白代行:漫画家を目指していました。『週刊少年ジャンプ』にバトル漫画を描いて持ち込んでいたのですが上手くいかず、結局どこにも掲載されませんでした。でも、漫画もセリフにこだわって制作していたので、メモしていたセリフやモノローグが空白代行を始める時にとても役立ちました。

――Xやnoteなどでなく、なぜTikTokで文章を発信しようと思われたのでしょうか?

空白代行:今から3~4年ほど前、TikTokは顔を出して踊ったり、面白い映像を流すものだと思っていました。ある日、綺麗な映像を切り合わせた動画が流れてきたんです。映画のように心に訴えかけることもできるんだな……と感動して、その投稿主をフォローしました。そしたらフォローが返ってきたんです。後に誤ってフォローしたんだと分かったのですが……笑。

アクセスが増えるチャンスかも!と思って急遽、撮りためていた動画と、キャプション欄には漫画を描いていた時のメモから書き起こした文章を入力して、慌ててアップロードしました。それが空白代行の始まりです。

――学生の恋愛の物語が多い印象ですが、その理由は?

空白代行:視聴者に求められてるのが恋愛の話なのかな?と思っていたことと、書籍を作るにあたって恋愛をテーマにしたかったので自然に多くなりました。実体験というより、周りの友人などから見聞きした話を参考に物語を作っています。今はSNSを筆頭に、出会いには様々な方法がありますよね。膨大な選択肢の中から、この人を選んで付き合う、という強い気持ちと一途さが魅力で、現代の若者の恋愛の物語は書いて楽しいし、筆も乗ります。

――TikTokの投稿には何百件もコメントがついていますが、読んでいらっしゃるのですか?

空白代行:もちろん! スクショすることもあります。書いている自分でも気づかないポイントや感じてほしいところを的確に読み取ってコメントいただけると嬉しいし、自分の恋愛に照らし合わせて赤裸々に話して下さる方も嬉しいです。悩んだりつらい渦中にある人から「生きていこうと思えました」と感想が書かれていたりすると、ああ書いていて良かったと心から思います。

――限られた文字数で書くのは難しいのではないでしょうか?

空白代行:長いのはむしろ書けないんです。元々小説や映画のラストシーンが好きなので、ラストシーンだけ書いている感じ。ラストに至るまでの物語を書くのが苦手で、こう終わらせたい、から逆算して書くこともあります。ある程度関係ができている物語の途中から書いて終わらせる、思えば贅沢な書き方なのかもしれません。

――学生時代の表現が繊細で、今まさに教室で書いているように感じます。特に机に突っ伏す場面が効果的に登場していると感じました。理由や狙いはありますか?

空白代行:言われて初めて気づきました。思い返すと学生の時に、好きだった人に好意がバレてしまったことがあったんです。でも相手は無反応で不安でした。翌日、自分はずっと机に伏せてたんです。心配してほしかったとか、学生ならではの駆け引きのひとつだったのかもしれませんね。その日の終わり「今日なんかずっと落ち込んでたね。」と話しかけられ、恋が成就しました。その成功体験が残ってるのかな?と思いました。懐かしいです。学生時代のことは今もはっきり思い出せるんですよ。大人になりきれなくて、まだ高校生でいたいと思うくらい。学生の物語を書くことによって、自分の高校生活を延長させているような感覚になっているのかもしれません。

――書籍を通じてメインテーマ、最も読者に伝えたかったこととは?

空白代行:何回も読んでほしい。僕は落ち込んだら、音楽を聴いたり、映画の好きなシーンだけを観たりするんです。それを本でできたらいいなって思っています。やはり読書って結構頑張らないといけない。気合いが必要ですよね。でも落ち込んでいる時、疲れている時はなかなか難しい。だからすぐ開いて、ちょっと頑張れば読める本があってもいいのかなって思いながら書きました。音楽や映画のチャプターみたいな存在に、この本もなれたらいいなと思っています。

――最後に、読者の方々へのメッセージをお願いします。

空白代行:自分のためには頑張れないのですが、待っていてくれる人がいれば頑張れます。そこに居てくれたら書くので、そっと見守っていて、という気持ち。もし、僕の読者の方に思い詰めてる人や、悩みを抱えている人がいるとしたら、フィクションに逃げるのもいいよって伝えたいです。つらい時に逃げ込める場所になれるよう、これからも書き続けたいと思います。

取材・文=米田ゆきほ

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