染井為人「『社会派』のつもりはまったくない」、自作は「あくまでも娯楽本」。新作『歌舞伎町ララバイ』執筆背景と物語へのスタンスを語る【インタビュー】
PR 公開日:2025/4/4

2025年3月19日、染井為人さんが長編小説『歌舞伎町ララバイ』(双葉社)を刊行した。横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞したデビュー作『悪い夏』(KADOKAWA)が直近で映画化され、さらなる注目を集める染井さん。
映画化とドラマ化を果たした『正体』(光文社)も大きな話題を呼ぶ中、染井さんが新たに挑むテーマは、歌舞伎町の「トー横キッズ」だ。家に居場所がない若者が集い、生きるための手段を模索する。アウトローな生き方を選ばざるを得なかった10代の若者に焦点を当て、現代社会の仄暗い一面を切り開く今作。
これまでも数々の社会課題を題材として作品を描いてきた染井さんが、主人公である15歳の少女・七瀬を通して見る景色とは。本作に対する思い、七瀬が生まれた経緯、作家として生きる中で抱える葛藤についてうかがった。
トー横キッズが抱える背景。「家が苦しい」と感じる子どもたちを描く
――『歌舞伎町ララバイ』は、新宿歌舞伎町のトー横キッズが主な登場人物となっています。物語の題材に「帰る家がない」若者を選んだ理由を教えてください。
染井為人(以下、染井):きっかけは、編集さんとの打ち合わせの中でトー横キッズの話が出てきたことです。これまで表に見えてこなかった彼らの存在に関心を抱き、小説の題材にしようと決めました。実態が掴みやすいルポルタージュを中心に、トー横キッズに関する書籍や資料、インタビュー記事を読み込み、どのような背景を抱えた子どもたちが歌舞伎町に集まっているのかを調べて執筆に入りました。
――読み込んだ資料の中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
染井:やはり彼らが抱える背景ですね。『歌舞伎町ララバイ』の主人公である七瀬は、父親から性虐待を受け、彼氏からも非道な行為を強いられ、中学卒業と同時に家を飛び出しました。七瀬と同じような被害体験があり、頼れる友だちもおらず、逃げるように地元から出てきた子どもが実際にいるんです。ほかには、母親が宗教に傾倒してしまったケース、単純に「勉強が嫌だった」という理由など、若者が歌舞伎町に集まる理由はさまざまです。いずれにしろ、小・中学生のような10代の子どもが、「家に居場所がない」「家が苦しい」と感じる事例があることに胸が詰まります。
――本書では、トー横キッズに手を差し伸べるふりをしながら、彼らを搾取する大人たちの構造も描かれています。
染井:トー横キッズの名前が表に出てきたのは、およそ4~5年前だと認識しています。僕も数年前にニュースで見て、驚きと共に“こういう子どもたちがいるんだな”という印象を受けました。そうやって世間で話題になると、彼らが子どもである点を利用しようとする悪い大人たちが必ず出てきますよね。本書でいえば、七瀬にガールキャッチの仕事を斡旋する浜口竜也もその類になります。違法とわかっていて15歳の少女にそれをさせているわけですから。手を差し伸べるふりをして、実は別の目的がある。そういう大人の姿を描きたいと思ったんです。
――染井さんにとって、思い入れの深い登場人物を教えてください。
染井:それぞれに好きなところがありますが、七瀬はやっぱり魅力的ですね。七瀬はピンチのときも落ち着いていて、基本的には冷静沈着な人物です。暴力団の構成員に呼び出されたときでさえ平然としている。そんな腹の据わり方をした15歳の少女は、逆に危ういですよね。でも、そこが七瀬の魅力ともいえます。
ほかには、颯太という古臭い人間が出てくるのですが、彼も書いていて魅力的でした。情に厚く、18歳なのにSNSもやらないような昔気質の性格で、任侠団体の行儀見習いをしている少年です。現代のトー横キッズとの対比として、颯太のような人間を描きたかったんです。
