染井為人「『社会派』のつもりはまったくない」、自作は「あくまでも娯楽本」。新作『歌舞伎町ララバイ』執筆背景と物語へのスタンスを語る【インタビュー】
PR 公開日:2025/4/4
最初の1行目を書いた時点で物語が動き出す。プロットを立てない執筆スタイル

――本書の中で、七瀬の友人が命を落とす場面があります。死因はオーバードーズ(薬の過剰摂取)でしたが、実際のトー横キッズの間でもオーバードーズは深刻な社会問題になっていますよね。
染井:そうですね。オーバードーズで亡くなった子がいるというニュースが、自分の中にも少なからず残っていたのだと思います。ただ、現実の問題をそこまで明確に意識したものではなく、もっといえば七瀬の友人が亡くなる設定もはじめから想定していたわけではないんです。僕は、日頃から着地点を考えずに書き出してしまうところがあって。本作ではじめに固まっていたのは、七瀬のキャラクターぐらいです。
――では構成の段階で決まっていたのは、登場人物と大枠のテーマのみでしょうか。
染井:そもそも僕は、プロットが立てられないんです。前編部分で七瀬を歌舞伎町で泳がせて、その中で物語や魅力的なキャラクターが出来上がってきたことで、後編は七瀬以外のキャラクターを描こうと思いついた形です。だから、はじめから具体的にこうしようとか、復讐劇にしようとか、そんな構想は全くなかったですね。
本当はプロットを立てたほうがいいんですけど、どうしても立てられなくて。これまで何百回とトライしましたが、どうしても筆が止まってしまうんですよ。プロットなしで原稿を書くから、毎回作品が長くなっちゃう。本作はもともと連載作品だったのですが、予定通りの回数では終わらなくて、1回延ばしてもらいました。
――長編大作である『正体』も、プロットなしで書き上げたのですか。
染井:そうです。『正体』も「まず死刑囚を脱獄させてみよう」というところから書き出しました。以前、双葉社から刊行した『鎮魂』のときも「プロット書きます」と言ってみたものの、いざ書いて送ってみたら「これは普通の原稿です」と編集さんから言われました。
――では、1話目を書いたところから物語がはじまるのですね。
染井:1話目というよりは、1行目を書いたところからですね。『歌舞伎町ララバイ』でいうと、この一節です。
“日本一の歓楽街、新宿歌舞伎町――。
世間はこの街をおっかないところだというが、七瀬はちっともそうは思わない。七瀬にとって歌舞伎町は安息の地だ。”
歌舞伎町に対する世間のイメージと、七瀬にとっての歌舞伎町の見え方。ここで七瀬のキャラクターがある程度浮かび上がってきます。若いくせにひどく冷めていて、自分の人生を諦めている。そんな七瀬を行動させていく中で、自然と友だちや知り合いが出てきて、物語が動きはじめました。