染井為人「『社会派』のつもりはまったくない」、自作は「あくまでも娯楽本」。新作『歌舞伎町ララバイ』執筆背景と物語へのスタンスを語る【インタビュー】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/4/4

40代は通ってきた道を振り返る年代。「そうじゃなかった人生」を想像する瞬間とは

――暴力団の構成員である矢島が、一般的な勤め人を窓から眺めて「なぜ自分は彼らのような人生を歩むことができなかったのだろう」と感傷にふける場面があります。何気ないシーンでしたが、この感覚をすべての登場人物が心のどこかで抱いていたのではと感じました。

染井:矢島は登場人物の中では年齢が上で、前編だと40歳ぐらいの設定なんです。そのぐらいの年になると、矢島のようにアウトローとして生きる人以外も、「そうじゃなかった人生」を想像するのではないでしょうか。何かがうまくいかないとき、なんでこうなったんだろう、あのときああしていれば、こうしていれば、というふうに。僕は矢島と同世代なのですが、来た道を振り返って「どこで道を間違えたかな」と思うことはいっぱいあります。

――『悪い夏』に登場する40代の山田吉男も、「なんでこんなことになっちゃったんだろう」と悔やむシーンがありました。染井さんご自身は、どのような場面で過去を振り返るのでしょうか。

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染井:たしかに山田も似たような場面がありますね。やはりそういう年齢なんでしょう。僕の場合は、原稿とにらめっこしても全然書けなくて苦しんでいるとき、「なんでこんな仕事を選んじゃったんだろう」とよく思います。『正体』が映画化に続いてドラマ化されて以降、ありがたいことにお仕事のご依頼をいただく機会が増えました。でも、期待に応えられない。それがつらいです。なんでこんなに朝から晩まで苦しんでいるんだろうと思うこともしょっちゅうあります。

 そもそも自分が作家になるなんて思っていなかったので。芸能界で仕事をしていた頃は、人付き合いがあまりに多すぎて、電話が鳴りっぱなしで本当につらくて、もう嫌だな、1人になりたいなと願って作家に転身したんです。でも、いざ本当に1人になったら人恋しくなっちゃって。ないものねだりなんですけどね。

――『悪い夏』では生活保護受給者が抱える問題について、『鎮魂』では半グレ集団の罪と罰についてなど、染井さんはこれまでも数々の社会課題をテーマとして作品を描かれています。本書で描かれるトー横キッズも世間が広く認知している社会課題といえますが、このような題材で物語を書くときに意識していることはありますか。

染井:説教臭くならないことですね。僕はよく「社会派」と言われますが、そんなつもりは全くなくて。たまたま題材にそういうものを選んでいるだけで、社会を啓蒙したいとか、一石を投じたいみたいな気持ちはあまりないんです。僕が書くのはあくまでも娯楽本であり、エンタメ作品なので。シンプルに読者の皆さんに楽しんでもらいたい気持ちが強いですね。

 あらゆる問題を深く突き詰めたら、当然いろんな問題が出てきます。だから僕は、あえてそこに答えを出さない。答えは立ち位置によっていくらでも変わりますから。さまざまな人物の視点を通して、問題提起をするぐらいのところで止めている感覚です。七瀬のような家庭環境の子どもたちに対して、僕にはできることがありません。だからせめて、こういう娯楽本を提供している身としては、僕の物語を面白いと思ってもらえたり、少しでも気分転換をしてもらえたら嬉しいなと思っています。

取材・文=碧月はる、撮影=川口宗道

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