野性爆弾 くっきー!「昭和後期から平成は“オレンジどろみ”時代」1980~90年代カルチャーを振り返る《インタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2025/4/9

マンガはヤンキー系、SF、格闘系の三本柱、食べ物はラーメン、そば、洋食の三本柱

──作中ではお好きなマンガについても語られています。「ヤンキー系とSFと格闘系の三本柱だけでやりくりしておるようです」という記述もありましたが、やはりその3ジャンルがずっとお好きなんですね。

くっきー!:そうですね。ヤンキーは『ビー・バップ~』『特攻の拓』が圧倒的でしたね。SFだと大友克洋先生がめちゃめちゃ好きです。『AKIRA』(講談社)はエグイし、『童夢』も面白かったなぁ。あの当時は、ちっちゃいコミックスが多かったですよね。そんな中、大友先生の作品はデカくてかっこよかったじゃないですか(KCデラックス版)。大きい本を棚に置くのも、大人でかっこいいと思って集めてました。『AKIRA』はヘリ(小口)の色が全巻違うのもかっこいいんですよね。

──格闘マンガでは、『グラップラー刃牙』(板垣恵介/秋田書店)などの名前も挙げていました。

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くっきー!:他には『餓狼伝』(夢枕獏:原作 板垣恵介:作画/秋田書店)、『軍鶏』(橋本以蔵:原作、たなか亜希夫:作画/講談社)とかね。

──実際の格闘技だと、プロレスよりもUFCのような総合格闘技がお好きだと書かれていました。

くっきー!:プロレスも一瞬ハマりましたけど、どっちかと言うと総合系が好きですね。UFCは出てきた初期に観たら、当時はまだグローブも何もつけんとただただガチの殴り合いしてて。噛みつき、目潰し以外は何でもありやった。エグかったんすよね。グレイシー柔術もそうですけど、知らん格闘技に触れた感があって。マルコ・ファスって選手が後ろを取られて、裸足のかかとで相手の足を潰すんですよ。「そんな戦い方、あんねや」と、ぞわぞわしましたね。

──最近お好きなマンガはありますか?

くっきー!:どうやろ。最近ってわけではないですけど、カネコアツシ先生のマンガは好きですね。能力を身につけた3人組がくんずほぐれつする『EVOL(イーヴォー)』(KADOKAWA)は、おもろいですね。カネコ先生のマンガは、全部おもしろいです。絵がおしゃれでね。『BAMBi』(KADOKAWA)とか『SOIL』(KADOKAWA)とか。

──カネコアツシ作品との出会いは?

くっきー!:やっぱりパンク。マンガというより、最初はイラストから入りましたね。過去にパンク系、ガレージ系でカネコ先生のイラストが流行って。『BAMBi』に、パンク、50's、ロカビリーのキャラがいっぱい出てくるんですよ。音楽系の人はみんな好きなんと違いますか。カネコ先生の作品は多分全部持ってますね。大友先生もですけど。

──マンガに限らず、最近ハマっていることはありますか?

くっきー!:意外とずっと同じものが好きなんですよね。ずっと一緒のもんをこねくり回してる感じかもしれないです。

 強いて言うなら、食べ物ですかね。お金のない頃は、ただただ家で白菜炊いてお腹パンパンになるまで食べてましたが、今ではうまいもんを食べてます。並ぶのはあんまり好きじゃないですけど、ネットで評価の高いところに行ったりね。好きなのは、ラーメン、そば、洋食。マンガだけでなく、食べ物も三本柱でやらせてもらってます(笑)。

俺らは“太柱アドリブ無能マガマガ世代”

──先ほど担当編集の方から「昭和や平成のカルチャーを知らない方が増えている」というお話もありました。今思うと、「これは変だったな」という流行はありますか?

くっきー!:人面魚ブームですかね。謎ですよね。ただ柄が顔っぽいだけやないですか。そこから人面犬まで派生して。おかしな時代じゃないですか。

──くっきー!さんからご覧になって、昭和後期から平成はどんな時代でしたか?

くっきー!:昭和って言うても子どもの頃なんで、あんまりわかんないですけど。でも、どぶッとしてるというか、とろみがかってましたよね。オレンジどろみ。パキッと透き通ってなかったなと思います。バブルでしたから、邪念が渦巻いていたというか、息が熱いというかね。ドブンドブンしてるというか、呼吸しづらい感じがありましたね。平成になって、ちょっとサパッとしてきて息がしやすくなって。

──昭和、平成、令和と生きてきて、いつが過ごしやすかったですか?

くっきー!:僕の年齢も変わってるから一概には言えないですけど、いつが一番楽しかったかと言われたら今が一番楽しい。平成は、僕にとっては人間成長期でしたね。今はもう令和7年ですか? ということは、僕はほぼ平成世代ですよね。

 でも、「いいとも」(「笑っていいとも!」)観てたら、平成元年生まれの人がテレフォンショッキングに出てて、タモさんが「平成!」って言ったのを覚えてる(笑)。その感覚もわかるんですよ。やっぱり自分の中では、「昭和の人間」って感覚が一番強いのかな。「平成生まれ」って言われたら、「えー!」って気持ちがいまだにあるんで。

──確かに、生きている時間としては平成のほうが圧倒的に長いですが、昭和生まれだと「昭和の人間」という感覚が根強くありますね。あれはなぜでしょう。

くっきー!:その時期に、いろんなものを脳みそに突っ込んでいくからじゃないですか。僕がお笑いを始めた時も、心斎橋筋2丁目劇場からbaseよしもとって劇場に行って、そこからうめだ花月に行ったんですよ。デビューした2丁目劇場は、2年もおらんかったんかな。いきなりbaseになりましたけど、やっぱり自分としては2丁目出身っていうイメージが強いんです。しょっぱなの印象が一番強いんでしょうね。

──それと同じように、くっきー!さんの土台ができたのも昭和なので「昭和の人間」というイメージが強いんですね。

くっきー!:そう。出だしが大事。やっぱりベン・ジョンソンも、ロケットスタートのイメージが強いですしね。「速っ!」って思いますやん。結局ドーピングしてたんですけども(笑)。

──この本を読んだ平成生まれの方は、「昭和後期から平成初期の文化は、独特の禍々しさがある」と話していました。

くっきー!:マガマガ世代ね。昭和はなんだかんだで人に優しい時代ではあったけど、凶暴な面もありましたよね。おもちゃも偽物が売られてたし、泥棒も多かった。学校のもんがなくなるとかも、めちゃめちゃありましたわ。

──その一方で、今は情報も娯楽も多いですよね。選べるものが多い分、自分の芯を持つのが難しい時代と言えるかもしれません。

くっきー!:僕らはあんまり情報がないから、ひとつ好きになったらそれがぶっとい柱になるんですよね。アドリブきけへん脳みそっていうかね。逆に、今の若い人はいろんなことを試せて良いと思いますよ。俺らは大学に行かなかったら、もう就職。ある程度決まった道しかなかったじゃないですか。僕は特殊な道に行きましたけど、今はいろんな働き方がある。俺ら“太柱アドリブ無能マガマガ世代”と違って、ええ時代になったなと思います(笑)。

取材・文=野本由起 写真=川口宗道

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