「賢者の石」を作った人は実在した!? ハリー・ポッター好きな“マグル”必見! 93歳の著者による“最後の魔法授業”【書評】
公開日:2025/4/17

魔法や妖精などが出てくるファンタジー小説には、夢がつまっている。常識が当てはまらない現象や個性豊かなキャラクターに触れると読み手は童心に帰り、“ここではない世界”への憧れが膨らむ。
ワクワクしながら現実社会での疲れを癒せる…。ファンタジー小説にはそんな魅力があるからこそ、ハリー・ポッターや近年人気の異世界転生ものは多くの人々から愛されているように思える。
そんなファンタジーの世界をより一層楽しみたい人におすすめしたいのが、『妖精教授 最後の授業 魔法の世界』(井村君江/主婦の友社)だ。
著者は、日本の妖精学研究を50年以上牽引してきた「フェアリー・ゴッドマザー」こと井村君江教授。本書は93歳の著者が届ける、魔法研究の集大成エッセイである。
一見、専門的な知識がなければ読み解きにくいのでは…と思えるかもしれないが、著者は初心者でも分かりやすいよう、図版や写真も用いながらオールカラーで魔法や妖精、魔術の知識を解説しているので、ご安心を。
著者は、イギリスの騎士道物語『アーサー王物語』の舞台であるコーンウォールで実際に暮らした経験も綴っている。
私の人生は、不思議なよい魔法にかかっていた――。そう語る著者が魔法に魅力を感じるようになったのは、5~6歳の頃だった。野原で遊んでいた際に転んで怪我をし、山に向かって「チ、チン、プイ、プイ、アブラカダブラ」「痛いのは向こうのお山に飛んでいけ!」と唱えたところ、少し痛みが和らいだような気がしたのだという。
そんな著者の体験談を聞くと、魔法はとても身近なものに思えてくるはずだ。
著者いわく、魔法は唱えるのにふさわしい時間帯があるそう。実は1日の中で最も魔法を唱えるのに好ましい時間帯は、悪魔が解き放たれ、陰性が深くなる真夜中なのだとか。さらに、水曜日は未来予知の日、日曜日は健康の呪文の日などというように曜日で効く魔法が異なるというから驚きだ。
著者によれば、愛と呪文の日である金曜日の真夜中は「魔法の女王ミコール」の力が最大限となるため、祈りがよく効くそう。今まさに叶えたい願いを抱えている方は著者のアドバイスを参考にして祈るタイミングにこだわってみるのもよさそうだ。
他にも著者は、魔法使いが地面に図形を描く理由や火が魔法にとって大切な存在であるワケなど、気になるけれど知れなかった疑問へのアンサーも丁寧に解説しているので、そちらも要チェックだ。
また、本書には人気のファンタジー作品をより一層楽しむための知識も多数収録されていて面白い。中でも驚かされたのが、ハリー・ポッターに登場する「賢者の石」を実際に作ったといわれる伝説をもつ錬金術師がいたことだ。ハリー・ポッターで「賢者の石」を作ったとされているのは、ニコラ・フラメルだが、本書では、もうひとり、錬金術師を紹介している。

彼の名前は、ストラス・フォン・ホーエンハイム。存命中は本名を一度も使わず、パラケルススと名乗っていたようだ。医師、科学者、神秘思想家として活動していたパラケルススは鉱物同士の化合物を医療に初めて用いたり、「ホムンクルス」(ラテン語でこびとの意)という物体を作ったりしたそう。彼は錬金術師でもあり、「賢者の石(フィロソファーズ・ストーン)」の作り方を見つけたという。
パラケルススは47歳で逝去したが、死因は明らかになっていない。謎多きパラケルススの学説や発明、伝説などは紙の資料でなんと車30台分ほどもあり、スイス・パラケルスス協会の学者たちが今も研究を行っているというからユニークだ。
本書には、ハリー・ポッターに登場する杖や呪文に関する知識やホグワーツ魔法魔術学校のロケ地写真も収録されているので、こうした関連知識を得た上で、もう一度作品を楽しんでみるのも面白いだろう。

古代エジプトからハリー・ポッターまでをひもとく、全22の魔法講座は読みごたえばっちり。魔法の奥深さにワクワクしてほしい。
文=古川諭香