【「マンガ大賞2025」大賞】「学ぶ」ってこんなにも楽しい!一人の少女が、日本人初の女性宇宙飛行士船長になるまでの物語【書評】
更新日:2025/4/24

私たちは何にだってなれる。可能性は宇宙のようにどこまでもどこまでも広がっているのだ。そんな実感に胸の高揚をおさえきれない。そんな作品が、『ありす、宇宙までも』(売野機子/小学館)。一人の少女が日本人初の女性宇宙飛行士船長になるまでを描く物語だ。この作品は、書店員を中心とした漫画好きが選ぶ「マンガ大賞2025」大賞作。今最も注目され、まさに今こそ読むべき作品だ。
主人公は、朝日田ありす。小学六年生の終わり頃に転校してきた彼女は、容姿端麗で学年中の人気者だ。だが、両親からバイリンガル教育を受けていたありすは、両親を亡くしたことによってどちらの言葉も上手く話せず、学校の授業についていけない。周囲はありすが失敗するたびに「天然キャラ」とかばってはくれるが、ありすは日々生きづらさを感じ、生まれ変わってやり直したいとさえ思い詰めていた。
そんな彼女の日常を変えたのが、隣のクラスの孤高の天才・犬星。「君はバカじゃないかもしれないってこと!つまり、なんにでもなれるって言ってるんだ」。そう言われたありすは、「宇宙飛行士」という夢を思い出す。「生まれ直さなくても、いいってこと……?」。ありすの言葉に犬星の心も動かされる。「放課後の1時間を俺にくれ。俺が君を賢くする」。そして、中学生になったふたりの、宇宙飛行士を目指す猛勉強が始まった。
「学ぶ」ということにはこんなにも可能性があったんだ! 真っ直ぐなありすが知らなかったことをどんどん吸収していく姿に、心動かされずにはいられない。犬星はなんて素晴らしい先生なのだろう。歩く辞書とでもいうべき犬星の知識、蘊蓄に圧倒されながらも、ありすは何とかそれに食らいつこうとする。小学1年生のドリルに始まり、犬星から出されたのは、将来宇宙飛行士になるために「明日何をすべきか」を考えてくるという宿題。ありすが「生まれて初めて明日やることがある」と心躍らせながら書きためたリストを、犬星はJAXAが出した「宇宙飛行士に求める8つの特性」に準じて分類し、そのひとつひとつをこなそうとする。リストに書かれた内容はどれもささいなことだが、まさにその小さな一歩は、偉大な一歩。それらは間違いなく、宇宙飛行士になる道へとつながっている。
ああ、ありすの変化が愛おしい。ありすは学ぶことによって、世界にたくさんの色があることを知り、自分の感情を言葉にできるようになり、だんだんと深く物事が考えられるようになっていく。一歩ずつ着実に課題をこなしながら、前へ前へと進んでいくありすの姿を見ていると、胸がいっぱいになる。誰だって夢を諦めなくていいのだ。少しずつでも進んでいけばきっと夢が叶う日がくるのだ。「子供は、自分の力で未来を変えることができる」——犬星がそう語るのには何か理由がありそうだが、その過去には何があるのだろうか。生きづらさを抱える少年少女が地球の引力圏を抜け出して、夢を叶える。そんな熱き挑戦を、是非ともあなたも見届けてほしい。きっとその挑戦は、あなたの心にもとびきりのワクワクをもたらしてくれるだろう。
文=アサトーミナミ