一条ゆかり「結婚はあんなもんだけど、後悔はない」自身の漫画家人生と恋愛を振り返る【『男で受けた傷を食で癒すとデブだけが残る たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集2』インタビュー 前編】
公開日:2025/4/29

『プライド』や『有閑俱楽部』など、数々の名作漫画を生み出してきた一条ゆかり氏。様々な人間と出会い、描いてきた彼女は人々からの相談も絶えなかったようだ。これまで聞いてきた悩みに対するアンサーを『今週を乗り切る一言』(「OurAge」で連載中)で綴ってきたが、これらをまとめたエッセイ集の第2弾『男で受けた傷を食で癒すとデブだけが残る たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集2』が電子書籍で好評発売中だ。
インタビュー前編では、前作『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』を含むエッセイ集が誕生した経緯や、一条氏のこれまでの人生を伺った。
■みんなの悩みは生ぬるい
――『男で受けた傷を食で癒すとデブだけが残る たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集2』は前作に続いて2冊目のエッセイ集ですが、どのような経緯で発売に至ったのでしょうか?
一条ゆかり氏(以下、一条):昔はパーティとか、どこに出かけても20~40代女性の相談係にされていたんですよ。それで、すごくたくさんの話を聞くけど、みんな悩みが似ているし、何かと甘いんですね。そんな私を見続けていた編集者から提案があり、webマガジンで連載を始めることになりました。
――ちなみにどんなお悩みや話が多かったんでしょうか?
一条:例えば、「男はこうじゃなきゃ嫌よね」「王子様はどこにいるの?」みたいなことを言われるの。私ついつい「王子様はいるけど、その王子様はあなたよりもいい女性のものだから諦めろ」って言ってしまったんですよ。言われた子もやっぱり傷ついていたんだけど、「じゃあどうしたらいい?」と聞いてくるし、私も傷つけたから薬ぐらいは塗ってあげなくっちゃなって、対策くらいは教えてあげないと、と思って。
けれど、親切に話を聞いていたけど、こういう人たちは何年経っても変わらないんですよね。それでわかったんです。この人たちは構われたいだけだと(笑)。自分の悩みを親切に聞いてくれるちょっと怖いお姉さんに、たまに殴ってほしい。これがずっと続いて、結局本ができちゃいました。
――この連載のお題のようなものは、編集さんが「今回はこういう悩みです」と持ってこられるんですか?
一条:仲のいいライターさんが持ってきてくれますね。ずっと一緒に仕事をしてくれていて、私の性格とか、何に怒るとかをすごく理解してくれるようになって。私の生き霊が乗り移ったみたい。このライターさんがいつも、私が喋る何気ない言葉をメモしたものが100くらいたまっていたみたいで。
それについて私が語ったことが連載になっているんだけど、私は「そうよね、すごいわ。あれ? 私こんなこと言ったの?」と自分が昔言った言葉に感動しているの(笑)。

■人生で1回くらいは結婚してみてもいいかな
――このエッセイでは、先生の結婚生活のお話も結構されていますよね。多くの女性の恋愛相談に乗ってきた先生ですが、ご自身の結婚生活はいかがでしたか?
一条:うーん、あんなもんかなあ、と。結婚したときは優しい人だと思っていたんです。3年くらい経ったときに、「いやこれ、優しいんじゃなくて『めんどくさいからどうでもいいよ』だな、こいつ」と気付きました。
でもこれはよくある話だから、とほったらかしていました。そうしたら漫画家である私にとってちょっと問題発言をしたので、「あ、わかった。妻やめるわ」となってしまいました。そのときに、私は自分の1番守らなければいけないものが“漫画家・一条ゆかり”なんだなとしみじみと思いました。妻の立場なんか、これがダメなら他でまた結婚したらいいや、くらい。
――結婚なさったことに後悔などはないのでしょうか?
一条:それは何事も経験だし、後悔はしていないです。結婚前は周りのうるさい親戚とかが、私が何か言うと「それはあなたが結婚したことないからよ」とか言って威張るからイラっときて、人生で1回くらいは結婚してみてもいいかなと(笑)。

■飽きっぽい自分を飽きさせないのが大変
――エッセイと同時発売の塗り絵(『一条ゆかりポストカードBOOK 塗り絵倶楽部』)についてもお伺いさせてください。絵のセレクトにこだわりは?
一条:表紙はすごくこだわりました。『塗り絵俱楽部』というタイトルと、『有閑俱楽部』のみんなが一緒にいるイラストが、突然ポンと頭に浮かんだんです。
――これまで描かれた作品って本当にたくさんありますもんね。
一条:編集は初期のイラストから色々入れたがっていたんだけど、私としては、昔描いた絵って下手だし、デッサンも狂っているし、使いたくないなと。なので『デザイナー』ぐらいから代表作を網羅しつつ、漫画とは関係なく自由に描いた表紙なども入れて。
――特に気に入っているイラストなどはあるんでしょうか?
一条:私はこの絵が好きなの。ちょうどアン・ルイスという歌手が流行っていた頃で、あのイメージです。「こんなファッションがしてみたい」と思って描きました。

あとは「りぼん」の付録用に描いた東村山のトトロ風のイラスト。昔、東村山に住んでいたので、その頃を思い出しながら描いていたらちょっと楽しくなってきて。でもすごく大変だったから、二度と描けないです(笑)。

「ぶ~け」の表紙ではちょっとデザイン的な絵だったり、漫画では描けないような日本画風のものが描けて楽しかったです。注文の仕方がすごいの、大きさと掲載号だけ教えられて、あとの指定はゼロ。

――本当に色々なジャンルのイラストがあるんですね。どうしてここまで幅広く描けたのでしょうか?
一条:私、ものすごい飽きっぽいの。ある程度は我慢するんだけど、自分の我慢が切れたら、もうやりたくなくなってしまうんです。これは欠点かと思ったら、漫画家としては長所だったんです。
どんなものを描いていても、飽きたから他のものが描きたいと言って。でも、連載だから飽きちゃいけないんですよね。飽きずに描けるのが単行本2冊半くらいまでなんだけど、それを過ぎるとどうしても飽きてくる。キャラクターの性格を変えると怒られるし、どうしよう、髪切らない?とか言っていました。
――今までは、どう乗り越えられたんですか?
一条:『プライド』だと、飽きた頃にキャラクターを外国に飛ばそうと環境を変えました。そうなると、海外の街並みとか文化とかを調べなきゃいけないから、飽きないのよ。飽きるってある程度できるようになってきたからじゃない? どうやって自分を飽きさせないか努力をするのが大変で。
でもこんな性格だから、長い間に色々なものが描けたんだと思っています。飽きずに20~30年同じテーマを描いている人って感心します。1つの話がずっと続いているんなら、私はとっくに漫画家をやめていたと思います。
取材=青柳美穂子、文=篠田莉瑚、撮影=干川修
