次の朝ドラは「小泉八雲」の妻がモデルの物語。19世紀日本で国際結婚をした夫婦の実像とは? 小泉八雲の伝記でしっかり予習を!【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/5/12

小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン田部隆次/中央公論新社

 2025年4月からNHKの朝ドラで漫画家・やなせたかしさんと妻の暢(のぶ)さんをモデルにした『あんぱん』がはじまったところだが、すでに次回作も発表されているのをご存じだろうか。今秋よりはじまるのは『ばけばけ』。ドラマ『御上先生』で話題になるなど、現在注目度バツグンの俳優・髙石あかりさん(22)が主役に抜擢されたとあって、はやくも注目が集まっている。

『ばけばけ』は、「雪女」「耳なし芳一」などで有名な『怪談』や山陰地方を描いた紀行文『知られぬ日本の面影』などで知られる明治時代の文豪・小泉八雲の妻である「小泉セツ」をモデルにした主人公の物語だ。ご存じの方も多いと思うが、小泉八雲とはアイルランド系・ギリシャ生まれの外国人(のちに日本に帰化)で、本名はラフカディオ・ヘルン(ハーン)。1890年に通信社の記者として来日したのをきっかけに、松江・熊本・神戸・東京と英語教師として活躍し、欧米に日本文化を紹介する著書も数多く遺した。ドラマの主人公のモデルであるセツは、1868年に松江藩家臣・小泉家の次女として生まれ、1896年に松江に英語教師として赴任してきた小泉八雲と結婚。当時はまだめずらしい「国際結婚」した女性なのだ。

 国際結婚ということでは、2014年の朝ドラ『マッサン』ではニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝とスコットランド出身の妻・リタがモデルとして描かれたが、彼らの婚姻は1920年。セツはそれより四半世紀近く前に結婚したわけで、一体どんな感じだったのか、単純に興味がわいてくる。このほど復刊される小泉八雲の伝記『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(田部隆次/中央公論新社)で八雲を支えたセツの面影も知ることができるので、一足先に読んでみてはいかがだろう。

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 本書の第一版が刊行されたのは1914年(大正3年)。小泉八雲が亡くなったのが1904年(明治37年)なので没後10年にあたり、関係者の記憶もまだ比較的鮮明な時期だ。著者の田部隆次は小泉八雲の直弟子だった人物で、折々の八雲の発言なども織り込まれていてリアルな八雲像が伝わってくる。ちなみに今回の文庫化にあたって、固有名詞などを現代的な表記に改め改訂や補足も加えているのでかなり読みやすいのがありがたい。

 へルンとセツ、二人の出会いは人の紹介とのことだが、もともと松江で「いい人」と評判だったヘルンだったので、「夫人も不安のうちに安心して嫁したのであった」とある(不安がないわけはなく、なかなか微妙な言い回しに笑ってしまう)。当時、日本人女性が西洋人に嫁いだ場合、夫の側は妻を「女中」のような感覚で捉えていたりしたようだが、へルンはそうではなかった(むしろそういう考えの人を嫌っていた)。日本の元日には羽織袴で日本の習慣通り年始の廻礼をしたり、仲良く旅に出たり――二人で歩いていると無作法な民衆に悩まされたなど先駆的な国際派カップルに苦労はつきものだったようだが、二人の結婚生活は幸せなものだったようだ。

 へルンが膨大な著作を書く上でもセツの存在は大きく、そのことはヘルンが多くの日本人女性の美徳を誉める文章や手紙を残していることからも伝わってくる。一体、ドラマでは二人の関係はどんなふうに描かれるのだろう。まずは本書で「人間・小泉八雲」を知り、秋を楽しみに待ちたい。

文=荒井理恵

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