本屋大賞5年連続ノミネート作家・青山美智子とミニチュア写真家・田中達也の共著『遊園地ぐるぐるめ』誕生! 「田中さんのアートを見て毎日お話を書いていた、私の夢が叶いました」《インタビュー》
公開日:2025/5/17
ピエロのアイデアはたった15分でほぼ完成
——遊園地というひとつの括りのなかで、全章に登場して物語をつないでいくのがピエロです。「ドウゾ!」「タノシンデ!」と話しかけたり、その場で調理したポップコーンを渡したりして、登場人物たちと関わっていきますね。
田中:あれね、最初はオカメインコが喋ってたんですよ。
青山:そうなのそうなの! 喋るピエロってあまりいないじゃないですか。だから、喋らせるためにインコやサルをピエロの肩に乗せていたんだけど…。
田中:(ミニチュアだと)ちっちゃすぎて、ゴマにしか見えない(笑)。


青山:そう、それでピエロに喋らせたんです。料理をするという設定は、食べ物が出てくるからコックさんみたいなピエロがいいなっていう話になって。
田中:青山さんが、オンラインミーティングの前にピエロのイメージの絵を送ってくれたんですよ。で、自分がその後に描いて送ったんです。
青山:私が送った15分後に、ほぼ完成形とも言えるピエロが送られてきて。衝撃だったのは、エプロンをしていたこと。私はコックさんといえば白い服しか思い浮かばなかったんだけど、白じゃなくていいんだ、と驚きました。たった15分でポンポンパッて発想が出てくるところもすごい。
田中:赤と白は、大阪のくいだおれ人形のイメージもあるんです(笑)。ピエロがひいているワゴンは、よく販売ワゴンやキャンピングカーで、すごいところから素材や調味料が出てくることがあるじゃないですか。ああいうのが好きで、ワゴンの中にコンロを入れたり、いろんな食器をぶら下げたりしました。
——ヒーローショーの回に出てくる着ぐるみも、よく見るとカバーの中に登場していますね。

青山:ヒーローショーの回のアイデアは100%田中さんなんです。
田中:ヒーローショーを入れてほしいっていう話をしたんですよ。田舎の遊園地に行くと、ヒーローショーを見ているお客さんが2〜3人しかいなくて、でもヒーローたちは頑張っているから、(お客さん側も)“自分が抜けちゃいけない”っていう妙な責任感が出てくる。真面目に見ないといけないし、向こうもそこにいる数人のお客さんのためだけにやっているところがあるだろうから、お互いに助けあうというか。そういうのをミーティングで冗談で話していて。
青山:そう。そんな田中さんのお話からインスパイアを受けて書いた一コマでした。遊園地あるあるを話しながらアイデアを出し合って、ミーティングが本当に楽しかった。
『人魚が逃げた』は神がかった作品

——別作品になりますが、田中さんが装丁を手掛けた『人魚が逃げた』では、作中にも田中さんらしき人物が登場しますね。ここでも内容を相談されたのですか?
青山:プロットを書いている時に、田中さんが出てきたら面白いなと思って。最初はファンの心情が出すぎてしまって、担当編集の方から「青山さんすぎる」と言われて書き直したんですけど。
田中:たしかにあれは、ファンっぽい感じが出ていた(笑)。
青山:そうそうそう。熱すぎて(笑)。
田中:あの時、銀座で偶然会ったんですよね。青山さんが銀座で『人魚が逃げた』の打ち合わせをしている時に、ちょうど銀座の展覧会で僕がトークイベントの準備をしていて。
青山:そう。その展覧会に私が行って「田中さん、今展覧会に来てるんですけど、盛況です」ってメールを送ったら、「今、同じ建物の地下1階にいますよ!」っていう返事が田中さんからあって。しかもあの日、私は銀座の和光で打ち合わせしてたんですよ(注※『人魚が逃げた』の舞台は銀座で、装丁には和光のアートが載っている)。この本、神がかってる。
——おふたりの不思議な縁を感じますね。『遊園地ぐるぐるめ』というタイトルの意図についても聞きたいです。
田中:今回入れているモチーフって丸いものばかりなんです。青山さんのこれまでの話も、回るとか巡るとか、そういうテーマを感じられるお話が多いですよね。さらっと読むと気づかないかもしれないけど、丸いものを意識しながら読んでいただくと、伏線がラストにつながっていくのがアートからも感じられて、より一層腑に落ちるんじゃないかな、と。
青山:“ぐるぐるめ”の意味が語られる部分には、これまで田中さんとご一緒した作品とリンクするような文章があるんですよ。“人魚”っぽい描写もさらっと入れています。『遊園地ぐるぐるめ』のほうが『人魚が逃げた』よりも先に書いた原稿なので、私としては予告でしたけど。“ココア”のくだりの書き方はちょっと強引だったかな…。

田中:ぼかしすぎると気づかないかもしれないし、わかりやすくていいと思いますよ。
青山:私の小説を読んでくださっている方なら、きっと気づいてくれるかなと。『遊園地ぐるぐるめ』から入っていただいてもいいし、他の本を先にお読みいただいて、ここに戻ってきていただいてもいいし。作品が増えるたびに、作品同士のつながりを見つける楽しみも、増えていくことを願っています。
取材・文=吉田あき 撮影=島本絵梨佳