連続ドラマも話題の『夫よ、死んでくれないか』がコミカライズ! 不倫疑惑の夫が失踪、調査で「知らない一面」が明らかに……【書評】

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PR 公開日:2025/5/19

コミック版 夫よ、死んでくれないか画:小萩紀歩、原作:丸山正樹/双葉社

 夫婦の絆とは、永遠の愛とは一体なんなのだろうか――。結婚生活が長くなると、そう感じることが多くなることもある。病める時も健やかなる時も支え合うことを誓った相手なのに、今では顔を見るたびに「こんなはずじゃなかった」という後悔がよぎる結婚生活を送っている人は意外と多いのではないだろうか。

 そうした結婚の難しさをスリリングに描いた話題の衝撃作『夫よ、死んでくれないか』がコミカライズされた。原作は、丸山正樹氏のミステリ小説。2025年4月より、テレビ東京にて連続ドラマ化されており、安達祐実や塚本高史など、実力派俳優たちの熱演が話題となっている。

 主人公は、大学時代の同級生である3人の女性。不動産開発会社に勤務する甲本麻矢は、憧れの部署で働けることにやりがいを感じているキャリアウーマン。だが、私生活は順調ではない。夫・光博との子どもが欲しいのか分からず、セックスレスで夫婦間には会話もない

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 一方、子持ちの専業主婦である榊友里香は、育児に協力的ではないモラハラ夫との生活に限界を感じているが、経済面が不安で離婚に踏み切れない。

 フリーライターの加賀美璃子は、夫の浮気が原因で離婚したバツイチ。元夫は離婚になかなか応じなかったが、麻矢らの協力を得て、なんとか自由の身になれた。

 3人は、各々の愚痴を話しながら飲む時間が唯一の息抜き。飲み会はいつも、「夫、死んでくれないかな」という本音でもあるジョークでお開きとなっていた。

 だが、そんな日常が大きく変わる出来事が…。事の始まりは友里香の夫が喧嘩中に頭を打ち、意識を失ったことだった。「夫を殺してしまったかも」と慌てる友里香に呼び出された麻矢らは大胆な行動に出る。なんと、友里香が罪に問われそうな痕跡を消し、友里香の夫を始末しようと考えたのだ。

 この突発的な行動はその後、3人の首を絞めることになっていく。

 また、夫婦関係がギクシャクしていた麻矢の身にも思わぬ出来事が起きた。ある日、クローゼットに隠されていた香水の香りがするベッドシーツを見つけてしまったのだ。夫は浮気をしている。そう感じた麻矢は夫を問い詰めようと決心するも、その矢先、光博は姿を消してしまう。そこで、麻矢は光博の消息を調査。すると、知らなかった夫の一面が明らかになっていき——。

 本作は、一見ギョっとするようなインパクトあるタイトルが秀逸だ。世の既婚者をドキっとさせ、自分の中にあるパートナーに対する本心に気づくきっかけを与えるからだ。

 結婚をすると、「恋は盲目」の魔法が解ける。パートナーの長所は逆に煩わしく感じられ、自分とは違うからこそ惹かれた価値観や感性の違いも麻矢夫婦のように喧嘩の原因になることもある。違う環境で生きてきた人間同士が幸せに暮らしていくのは、容易いことではない。

 だが、そうした結婚生活の中でパートナーに対して耐えがたい憎しみが募ったとしても、友里香のように子どもがいたり経済力が乏しかったりすると、離婚という決断は下しづらい。また、子どもがおらず、経済的に自立できていたとしても離婚に踏み切るのには、やはり勇気がいる。紙切れ一枚の契約は意外と重い。

 だが、そうしたギリギリの生活を送っている方にこそ、本作は響くものがあると思う。「この日常に耐えるしかない」という固い思い込みに「本当にそうだろうか」という問いを投げてくれるからだ。

 モラハラ夫から友里香が逃げ出す方法は? 麻矢が公私ともに充実するには、パートナーとのどんな話し合いが必要なのだろう。そう、登場人物たちを客観視してみると、自分が感じている不満と重なるものへの対処法も見つかるかもしれない。

 誰かを殺めたいと願うのは、自分の心身をすり減らしすぎているサインだと私は思う。本作のタイトルにピンときた方は自身の心と対話をしながら読み進め、自分のSOSに気づくきっかけを得てほしい。

 3人で力を合わせれば、何でもできる――。そう思い合う彼女たちに、次々と予想外の事態が襲い掛かる。彼女たちの固い絆は心の支えであるとともに、一歩間違えれば危ない橋を渡ることへのアクセルにもなるからこそ、ストーリーの展開から目が離せない。

登場人物たちのドロドロした感情や、自身の現状に悩み迷う表情も巧みに描かれ、いっそう感情移入しやすいのもコミック版ならでは。ストーリーもテンポよく展開し、ホッと一息ついたかと思いきや、すぐさま予想外の事態にに翻弄される麻矢たちの姿に、終始ドキドキが止まらない。

 なお、ドラマ版では璃子も既婚者という設定で、こちらも見応えがある。GPSで常に居場所を確認するなど、執拗に璃子を束縛する夫・弘毅の狂気がすさまじいので、すでに本作を読んだことがある方も楽しめるはずだ。

 永遠の愛なんて、どこにもなかった。そう悩み、葛藤している方はぜひ本作を手に取り、自分たちの結婚生活を見つめ直してほしい。

文=古川諭香

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