トム・ブラウン布川ひろきのエッセイ連載「おもしろおかしくとんかつ駅伝」/ 第15回「スキンヘッドカメラ岡本さん」

文芸・カルチャー

公開日:2025/5/31

昔、イチローさんがまだ現役の頃に今の日本ハムファイターズ稲葉2軍監督とテレビで対談をしていました。
「この対談は稲葉さんだから受けたんです。」
「イチ君。どういうこと?」
「名球会の超一流の野球選手は野球は上手いけども人間としてもすごく良い人というのはいないんです。僕も含めて。
エゴが強くないとストイックにやり続けることができないからです。
しかし、2人だけ人間としての部分も兼ね備えてる方がいて、それが王さんと稲葉さんなんです。」
こんな感じのやりとりを若い頃に見たのですがなぜか強く印象に残っています。
確かにプロ野球で超一流と呼ばれるには色んな物を捨てて野球が上手くなるために全力を注がなければいけない。
良い人かどうかとかより野球が上手いかが重要な世界なので。
もちろん悪い人というわけではありませんが他のことに目を向けてる時間がないということかなと思います。

プロ野球と比べるのはあってるかわかりませんが芸人の仕事も似ていると思います。
芸人は人間的に良い人じゃないといけないわけではありません。
良い人かどうかより自分が目立つのが優先でエゴがないと生き残っていけなかったりもします。
お見送り芸人しんいちを良い人とは皆さん思いませんよね。
エゴ強いなぁと思うこともある。
でもテレビで悪いことしてたけど、なんか面白かったなぁと笑える。
そういう人間味があれば良い人かどうかは置いておいても良いのです。
だから僕はお見送り芸人しんいちが人間的に良いやつとは思いませんがかなり好きです。
もう一度言います。人間的に良いやつとは思いませんがかなり好きです。

というように芸人も良い人かよりもエゴが必要だしエゴがあるのが正義とされている所な気がします。

でも最初のイチローさんのように僕が出会った中で数人だけ芸人でも本当に人間的に良い人で面白い人がいます。
そのうちの1人でスキンヘッドカメラというコンビの岡本さんという方がいます。
岡本さんは札幌よしもとの頃の先輩で今でも仲良くしてもらっている方なのですが
ブレイクはまだしていません。
芸歴は僕よりも上の23年くらいです。でもずっと面白いことをし続けて愚直にやっています。
たまにお笑いのことを話した時も愚痴や悪口はほとんどなく男塾に通っていたのではないかと思わされます。
10年くらい前に僕らがテレビに出るきっかけになった
「合体漫才」をM1グランプリの予選で初めてやったのですがたまたま2回戦が岡本さんと同じ日だったので一緒に結果を見たら落ちていました。
情けないのですが、その時けっこうヘコんでしまい岡本さんに30分くらい一方的に話をして全部話し終えた後に岡本さんが
「まぁ、俺もひっそり落ちてるからさ。」
と。
相手も落ちててしかも先輩なのにこちらがたくさん話をしてしまう特大の失礼をしてしまったのですが
全部聞く+自虐ジョーク
で一笑いにするという自分もヘコんでるはずなのになんて懐が深く人間的に良い人なんだと思わされました。

そんな岡本さんと数日前に久しぶりに東京でお茶をしました。
「まぁ、俺もひっそり落ちてるからさ。」
の話覚えてます?と聞いたら
「そんなこと言ったっけ?」
と、言っていました。
覚えてないということは普段から当たり前にそういうことをしてるのでしょう。
偽りの良い人ではなく真の良い人なのだなと再認識しました。

岡本さんに
「何で東京に来たんですか?」

と、聞くと
「今度小説を出すことになって」

、、、!?
そういえば岡本さんは20年以上前に小説のような文章をブログで毎日投稿していました。
みんなで深夜まで遊んでる時も
「ちょっとだけ、ごめん。」
と、30分くらい抜け出してブログの続きを書いて日をまたぐ前に急いで投稿していたことがありました。
20年以上続けてそれが実って本当に本になるなんてすごすぎます。
岡本さんに昔からやってましたよねと言うと
「そういえばそうだね。でも別につらいことではなかったかな。」
と、言っていました。
20年やってたことをそういえばそうだねで終わらせれるのか。
その時に思いました。
岡本さんは良い人であるのは間違いないのですがそれと同時に頭がバグっている変人なのかもしれない。
バグってる人、つまりバグラーです。

岡本さん。今回の小説
『僕の悲しみで君は跳んでくれ』
がヒットして第2弾を出すことになったら名前は
岡本雄矢ではなく
バグラー岡本に改名して出版して下さい。
人間的に良い人なのでこの願い叶えてくれますよね?

<第16回に続く>

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