『シビル・ウォー アメリカ最後の日』主人公のモデルにもなったリー・ミラー。ピカソやシャネルを魅了した彼女を描いた映画【レビュー】
公開日:2025/6/7
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シネマコーナーでは、目利きのシネマライターがセレクトする“いま観るべき”映画をピックアップしてご紹介します。
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年6月号からの転載です。
トップモデルから報道写真家に転身 戦争の前線で彼女が目撃した真実は

『リー・ミラー 彼⼥の瞳が映す世界』
監督:エレン・クラス
出演:ケイト・ウィンスレット、アンディ・サムバーグ、アレクサンダー・スカルスガルド 2023年イギリス 116分
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
5月9日よりTOHO シネマズ日比谷シャンテほか全国公開
1938年、南仏。芸術家や詩人の友人たちと休暇を過ごすリーは、芸術家でアートディーラーのローランドと出逢い、瞬く間に恋におちる。だが、ほどなく第二次世界大戦の脅威が迫り、一夜にして日常のすべてが一変する……。
撮られる側から、撮る側へ――。『VOGUE』誌のモデルをはじめ華やかで自由な生活を謳歌し、マン・レイ、パブロ・ピカソ、ココ・シャネルら天才たちを魅了。報道写真家に転身後も成功を収めたリー・ミラー。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の主人公リーのモデルともなった彼女は、いかにして従軍記者となったのか。戦争の前線で目撃した真実とは?
生きることに貪欲で、大きな犠牲を払いながらも並外れた行動力で突き進むリーの生き方に感銘を受けたオスカー女優、K・ウィンスレットが8年越しの企画を実現。主演と製作総指揮を担い、その情熱と功績、彼女が経験した感情のうねりを焼きつける。リーのパーソナリティを最も正確に表現できる最も印象的な瞬間を選び出し、ジャーナリストが晩年のリーにインタビューする設定にしつつ、中年期10年の旅路を明かす構成も大成功。単なる伝記映画とは一線を画す、リーの心の奥底に迫る真実のドラマへと昇華させている。
ヒトラーのアパートの浴室で撮影した一枚など、アイコニックな数々の写真の裏側が覗けるのも刺激的。映画ファンにはたまらない多国籍キャストの顔ぶれも、ウィンスレット主演作ならではだろう。いずれ劣らぬ名演ながら、特筆すべきは『パーム・スプリングス』のA・サムバーグだ。コメディ路線イメージを覆す繊細な演技で、仕事のパートナーまた友人として、脆さを秘めたリーに寄り添うデイヴィッド・シャーマン役に血肉を通わせている。ともにオスカー受賞歴を誇るM・オコナーが手がけた衣装&A・デスプラによる音楽も美しい存在感を放つ、渾身の一編。
文=柴田メグミ
しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA
SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。
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