雨の日にぼんやり3分待って食べるカップラーメンのおいしさに救われた。おばけの姿になった「僕」が、失った心のかけらを拾い集めていく物語【書評】
公開日:2025/5/30

『おばけのおいしいひと休み』(のもとしゅうへい/KADOKAWA)の主人公は、大学卒業後に就職した会社でがむしゃらに働きすぎた「僕」。「僕」は心の調子を崩し、気がつけばおばけの姿になっていた。
休暇をとったものの、何をしても感情が動かない日々が続き、ただ時間だけが過ぎていく。そんな中、唯一心を刺激してくれたのは「食べること」だった。食べたいものを心ゆくまで食べながら、「僕」が心を取り戻していく過程。それを丁寧に魅力的に描くのが本作だ。
降り積もる仕事。そこから生まれる焦燥感。居ても立っても居られず、逃げ出したくなるような辛さ。そんな思いを、誰もが抱いたことがあるはずだ。毎日を乗り越えることに精一杯で、自分の感情を無視してしまうこともあるだろう。それでも本当は一度立ち止まって、自分を見つめ直す時間が必要なのだ。本作は、そんな「ひと休み」の大切さを優しく伝えてくれる。
「僕」は「ひと休み」しながら、自分のために、おいしいものを食べる。それだけのことで、どれほど心が安らぐかを少しずつ思い出していく。
特別なごちそうじゃなくてもいい。雨の日にぼんやり3分待ってから食べるカップラーメン、動画を見て作ってみたチャーハン、旅先で偶然立ち寄った店のカツカレー。そんな何気ないメニューだけれど、自分で選び自分のために食べることこそが、心を満たしていく。
各話の合間には鮮やかなイラストと共に、作中に登場した料理のレシピが丁寧に紹介されている。また「心が疲れてしまった時の休み方」や「ごはんノートの作り方」といった、自分を労わるためのヒントも。読み終えた後、生活に取り入れてみるのも素敵だ。
もし今、あなたが少しでも疲れを感じているなら、ぜひこの作品を手に取ってほしい。「僕」が立ち止まりながらも前に進む姿に、読者もそっと背中を押されるはずだ。
文=ネゴト / fumi