ハトの首は何故キラキラ?発売5日で5万部突破の超話題作、宇宙人と身近な疑問を解き明かそう『大人も知らない みのまわりの謎大全』【書評】
更新日:2025/6/11

学校の宿題で、他の星に「めずらしいもの」を探しにいくことになった宇宙人ふたり組。旅費をケチったため、降り立った場所は日本のごく普通の住宅街で――。
そこから始まる『大人も知らない みのまわりの謎大全』(ネルノダイスキ/ダイヤモンド社)は、オール2色カラー(一部4色)で学習マンガの形式をとった児童書だ。発売前からSNSで評判になり、発売直後にはAmazon書籍ランキングで総合1位を獲得。大判300ページというモノとしての存在感も手伝ってリアル書店での売れ行きも好調と、3月26日の発売からわずか5日で4万部の重版がかかって5万部を突破。その後もハイペースで版を重ね、現在(6月10日時点)の部数は9万部というのだから、反響の程がうかがえる。

各章は、「住宅街」「商店街」「河原」「駅前」とエリアごとに分かれており、そこで宇宙人が遭遇したびっくり体験について掘り下げていく趣向だ。建物の壁に現れたヒビを見て、「家が怒ってるぞ!」「血管が浮き出てる!」とおののき、金網で出来たゴミの収集箱を見て、中に何も居ない動物の檻と勘違いし、「猛獣が脱走してるかも!」と慌てふためく。地球人にとっては見慣れたものも、その概念がない異星からやってきた彼らにとっては摩訶不思議なものでしかない。まず、身近なものを新鮮な演出かつ大ゴマで見せる構成に引き込まれる。

著者はマンガ家でイラストレーターのネルノダイスキ氏。その著書『ひょうひょう』『ひょんなこと』 (共にアタシ社 )では、二足歩行の猫的な者(?)が、有機物や無機物、概念とすら何の制約もなく伸びやかに言葉を交わすイマジナティブな世界が描かれた。どこかレトロ、なのにポップな線で紡がれたその感性は、本作にも息づいている。
ビルに据えられた「定礎石」の意味は? ハトの首はなぜキラキラしているの? 鳥はなぜ電線で感電しないの? 複雑な斜面をうねうねとしたコンクリートで固定する擁壁(ようへき)の工法名は? 宇宙人が謎に遭遇するたび、その道の達人が識者としてどこからともなく現れ、解説してくれる。詳細かつ愉快な図には情報がみちみちに詰まっており、「これってこんな名前だったんだ!」「それって、そういう仕組みだったんだ!」と読むごとに新鮮な驚きがあり、街を見渡す解像度も上がる。著者が「制作に5年かかった」と語るのも納得の情報量だ。

ひとつの謎に割かれるページ数は4~6ページと短く、タイト。それもいい。次々に繰り出される情報に刺激を受け、自分ものんびり街を見て歩きたくてうずうずしてくる。
あらゆる情報が秒速で流れ去ってしまう時代だ。それもあって、普段よく目にするものこそ、あえて「ないもの」としてスルーしてしまうことがある。しかし、それでは勿体ない。お金を出して遠くに出掛けなくても、パスポートを持たずとも、「ないもの」としてきたものを起点に、いつでもワンダーな世界に繰り出すことが出来るのだから。
文=山脇麻生