岩田剛典主演でドラマ化!「医師の転職」をスリリングな展開で描く異色マンガ『DOCTOR PRICE』完結巻【書評】

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PR 公開日:2025/6/26

DOCTOR PRICE 5 完
DOCTOR PRICE 5 完逆津ツカサ:原作、有柚まさき:作画/双葉社

 漫画『DOCTOR PRICE(ドクタープライス)』(逆津ツカサ:原作、有柚まさき:作画/双葉社)は一見すると地味に思える「医師の転職」という題材を、抜群の切り口とスリリングな展開で見せてくれる異色作だ。2022年から2024年まで『漫画アクション』(双葉社)で連載され、最終巻の5巻が2025年6月26日に発売。7月からは岩田剛典主演でのドラマ放送も決定しており、注目度は高まっている。

 主人公の鳴木金成は、元々はプロ野球選手の卵だった。ドラフト指名を蹴ってまで医師になったのは、「年収の高さ」が理由だった。しかし彼は病院勤務を辞め、医療専門の転職エージェントを担うようになる。その点で既にほかにある医療漫画とは一線を画している。一件紹介するごとに平均300万円の報酬を得るこの仕事を通じて、鳴木は医療業界の矛盾や闇に踏み込んでいく。

 私も医療者の家庭で育ったが、非常に堅実で、ほかの子どもたちが持っているような玩具や携帯電話も持たせてもらえなかった。医師の崇高でお金持ちのイメージを、小説や漫画で知るたびに驚いたことがある。それもあって本作が、医療業界での誤解を真っ向から裏切ってくるのは痛快でもあった。激務で心を病む若手医師、経営優先で現場を軽視する病院、医師を巡るヘッドハンティング――表に出ることのない現場の実態を、鳴木は冷徹に見つめ、時に利用しながらも、患者の未来と医師の人生を両立させる選択を模索する。

 この作品の最大の魅力は、鳴木という主人公のスタンスだ。彼はヒーローでも救世主でもない。むしろ、交渉と情報戦に長けた“医療業界のブローカー”だ。しかしその裏には、家族に関係する悲しい過去があり、表には出さない怒りと正義感を内に秘めている。そのアンビバレントな存在感が、物語全体に深みを与えている。

 作画を担当する有柚まさき氏の絵柄も、緻密で読みやすい。複雑なテーマや医療現場の緊張感を視覚的にわかりやすく伝えていて、交渉の駆け引きや心理戦にも説得力がある。また、鳴木を支えるバディのような存在の事務スタッフ・夜長亜季の存在も、ストーリーの緩急を巧みに演出する役割を果たしている。

 全5巻というコンパクトな構成も魅力的で、余計な引き延ばしはなく、テンポよく物語は展開する。一歩間違えると重すぎるテーマだが、医療業界をよく知らない読者も読みやすいエンターテインメント作品としての役割を果たしている。

 本作は、理想だけでは立ち行かない現代医療の現場を、現実的な視点で描いた希少な作品だ。「命を守る仕事」が「ビジネス」としてどう成り立ち、どう揺れ動くのか。その問いかけは、読者の胸にも強く響くだろう。

 漫画である本作が、映像化によってどのように変化するのか。その両方を楽しんでみてほしい。

文=若林理央

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