映像化不可能!? 驚愕の結末に、二度読み必至! 『世界でいちばん透きとおった物語』著者が放つ学園ラブコメミステリ【書評】
公開日:2025/6/21

よくある学園ラブコメミステリだと思っていた。だが、後半の一文を読んだ時、「え……」と思わず声が漏れた。世界が一瞬でひっくり返る。私は一体どこで騙されていたのだろう。いや、どこからというか、最初から騙され続けていたに違いない。ここまで見事に読者を騙しきれるだなんてあっぱれだ。——ああ、読み返したくて読み返したくてたまらない。どこから勘違いしていたのか、読み間違えていた場面には、本当はどういう意味があったのかが知りたい。
そんな「二度読み必至」の衝撃を与えてくれるのが、『天嬢天華生徒会プリフェイズ(電撃文庫)』(KADOKAWA)。『世界でいちばん透きとおった物語(新潮文庫nex)』(新潮社)が大ヒットの著者・杉井光氏が自らのホームであるライトノベルで放つ、超王道学園ラブコメミステリだ。
主人公は、やっとのことで教員資格をとったとある先生。紹介された就職先は、《天涯学園》。半島ひとつがまるごとキャンパスとなっている、学園都市を超えた独立学園国家だった。その桁違いのスケールには誰もが圧倒させられるだろう。そこは日本領外で、入るのにはパスポートが必要。公式非公式あわせて500近くの学舎の集合体で、全生徒は25万人超。「生徒の自主性を重んじる」というのは、ここ天涯学園では単なる標語ではなくそのままの意味で、学舎の経営も管理もすべて生徒が行い、治安維持から教師の雇用まですべて生徒が行っている。着任早々、爆弾テロ事件に巻き込まれ、絶体絶命のピンチの中、生徒会長にして学園の《王》天祿院凰華が現れる。そうして、凰華によって生徒会執行部の顧問に据えられ、怒涛の教員生活が始まるのだ。
「先生はこのわたしが一生涯添い遂げ、尽くす方ですので!」
なぜか生徒会長・凰華に執着され、「あの、ぼくは教員として雇われたわけで、なんか特別なことを期待されても」と困惑気味の先生がおかしい。他の生徒会執行部のメンバーも個性的。風紀委員を率いる天然キャラの副会長・竜胆。事務全般を担いながら、研究に勤しむツンデレ書記・アルテ。そして、先生は、生徒会執行部に入ったばかりの、ちょっぴり地味な生徒を担当することになり……。凰華の所属する女子学舎で、女子生徒に囲まれるドキドキの日々が楽しくて仕方がない。
天涯学園ならではのスケール。わちゃわちゃした女子生徒たちの会話。彼女たちとの近すぎる距離……。この物語では、ちょっぴり情けない先生とともに、そんな日々を追体験することができる。読み進めながら薄々感じるのは、この先生の過去には何かがありそうだということ。一体何があったのかと疑問に思いながら読み進めていけば、クライマックスの大どんでん返しに度肝を抜かれる。それも一度ではない。二度世界がひっくり返るのだ。ああ、ミステリ好きとしては「どうして気づけなかったのだろう」と悔しい気持ちまで湧いてきた。『世界でいちばん透きとおった物語』もまた衝撃的な作品だったが、この作品はそれと同様、いや、それ以上に刺激的。『世界でいちばん透きとおった物語』は「電子化不可能」な作品として話題となったが、この作品は「映像化不可能」ではないか。本作もまた、本だからこそ味わえる最高の読書体験を味わわせてくれる。
あなたはこの物語に騙されずにいられるだろうか。読み終えた時、絶対にもう一度読み直したくなる。そんなこの学園ラブコメミステリの衝撃を、あなたにも是非。
文=アサトーミナミ