「きさらぎ駅」から出られない少女たちのサバイバルホラー! 原案・逢縁奇演「世界に怪の根が植えられ、いずれ禍いに至ることを願って」【『カタリカ』インタビュー】
PR 公開日:2025/6/21
第26回電撃小説大賞で編集者の目に留まり、『運命の人は、俺の妹でした。』『こちら、終末停滞委員会。』(ともに電撃文庫)などで好評を博す作家の逢縁奇演(あいえんきえん)さん。初めてホラーに挑戦した原作漫画『カタリカ—語り渦—』が竹書房のwebコミックガンマで連載され、7月16日にはコミックスの2巻が刊行される予定で、じわじわと評判が広がっている。

都市伝説でも有名な「きさらぎ駅」をフックに、怪異と少女たちが対峙する、都市伝説×サバイバルホラーの青春友情物語である本作。読み始めは美少女モノだと思ったら怪異が登場し、ガツンと衝撃を受けながらも予測不能なストーリーに迷い込み、推理や都市伝説などが複雑に入り混じった味わい深い世界観に没頭していく……一度ハマったら抜け出せない沼のようなホラー作品だ。SF系作家でありながら、じつはホラーやオカルトも大好きだという原案の逢縁奇演さんにお話をうかがった。
じつはホラーがものすごく好きなんです
——これまで執筆された作品はラブコメやSFが多かった逢縁奇演さんですが、『カタリカ—語り渦—』はホラー作品ですね。
逢縁奇演さん(以下、逢縁奇演):じつはホラーがものすごく好きなんですよ。好きな映画も『貞子vs伽椰子』ですし。ホラードラマとかも大好きで、いずれやりたい気持ちはありました。今回の作品を作るとなった時に、ホラーでどうかなと思っていたのですが、イラストはクラタヒロヤスさんに決まっていたので、いったんクラタさんの可愛い絵なら恋愛や日常系がいいんじゃないかという話も出たんです。けど、クラタさんからも「ホラーがやりたい」という声があり、ホラー作品になりました。

——普段もホラーをよく見るんですか?
逢縁奇演:投稿ホラーものってあるじゃないですか。『ほんとにあった!呪いのビデオ』とか。最近だと『心霊マスターテープ』が非常に面白くて。話題の行方不明展にも行ってきました(笑)。
——『カタリカ』1巻のあとがきには、10年前にご自身が人形に呪われたような小話もありましたが、霊的なものに敏感だったりも……?
逢縁奇演:僕が経験したのはその1回きりですけど、人形の頭を踏んで怖い体験をして以来、1〜2週間くらい常に見られている感じがあって、ちょっと変になっちゃって。気持ち悪い絵をバーッと描くという漫画みたいな行動というか、呪われ方というかをしたことがありました。
——まさに呪いですね……。そこで怖がって逃げるのではなくホラーのシナリオまで書いてしまうなんて、ホラーへの愛情が伝わります。『カタリカ』も、ご自身が好きな実話系オカルトと同じように、主人公の笹塚ささみが不可解な出来事を現場に行って検証していくようなお話ですね。
逢縁奇演:アシオスさんとかオカルト・クロニクルとか、懐疑論者側として関わるホラーがいちばん好きなので、僕がホラーを書くならやっぱり、怖いけどちゃんと懐疑して見極めるようなホラーにしたいと思いました。
“きさらぎ駅”は美しいものになりたかった異形たちが集まる場所

——1巻に収められた『きさらぎ駅』は、怪異と対峙しつつも、登場する女子高生たちの青春と、“友だちを救えない”という悲しいドラマが描かれるという、複雑かつ読みごたえのあるエピソードでした。
逢縁奇演:ホラーの文脈としてはリア充たちがスラッシャー映画みたいに雑に死んでいくこともできたと思いますが、この作品ではホラーという怖い世界観の中で“大切なものを失う”っていう喪失感もちゃんと描きたい気持ちがあって。それを最初に提示したかったんですね。『カタリカ』はこれからどんどんポップさが失われていくので、最初のエピソードでポップな都市伝説を描いておきたいという気持ちもありました。
——高校生のユメたちを恐怖に陥れるきっかけの場所となるのが“きさらぎ駅”。避けたつもりがなぜか駅に戻ってきてしまうという不思議な駅です。
逢縁奇演:駅ってどこかからどこかへ行くための中継地点ですよね。それを今回は、現世から死者を結ぶ駅と仮定しました。人に憧れているけれど人になれず、天国にも行けず、美しいものになりたかった異形たちが集まる場所。だから、彼らから招かれた女子高生たちは、駅からどうしても離れられないんです。

——異形たちは彼女たちに憧れていたのでしょうか?
逢縁奇演:ユメたちのまぶしい友情や愛情や絆に憧れたんでしょうね。(キーパーソンの)原田くんなんかは、異常なまでに憧れて化け物になってしまった。だからこそ、ユメたちの友情や青春は美しく見せられるように意識しました。
——原田くんをはじめ、怪異たちの姿はなかなか恐ろしいですね……。
逢縁奇演:怪異に関しては、僕は「とても怖いスラッシャー」がちゃんと出てくる作品が好きで、“クリーチャー好き”なところが作品に表れているかと思います。
——ただ、ユメたちの友情や青春もしっかり描かれるので、ホラーに免疫がなくても読みやすい気がしました。ユメのお話に関しては、読んだ後にダークな気持ちにならないような結末ですし。
逢縁奇演:ラブコメやSFを読んでいた方からは「怖くて読めない」という声もありますが……。女子高生たちの友情や絆を描いたのは、なるだけ間口を広げたい思いがあったのと、イジメや虐待があるような人間関係ドロドロのホラーがちょっと苦手なので。矛盾してますけど、明るいホラーにはなっています(笑)。
