「きさらぎ駅」から出られない少女たちのサバイバルホラー! 原案・逢縁奇演「世界に怪の根が植えられ、いずれ禍いに至ることを願って」【『カタリカ』インタビュー】
PR 公開日:2025/6/21
「呪いのゲーム」は時とともに姿形を変えていく怪異・土蜘蛛が題材

——2巻から始まる「呪いのゲーム」は、とある村の謎が明らかにされていくお話で、「きさらぎ駅」とはガラリと雰囲気が変わります。「きさらぎ駅」を書いている時から「呪いのゲーム」の構想はあったんですか?
逢縁奇演:はい。『カタリカ』のシリーズって、ホラーのオーディオドラマを全12回で作ろうという話から始まっているので、ラストまでシナリオは完成しているんです。
——そうなんですね!? それは先が楽しみです! では、「呪いのゲーム」に込めた想いを教えてください。
逢縁奇演:「きさらぎ駅」が王道の異界冒険譚だとしたら、「呪いのゲーム」は因習村っぽいニュアンスがありつつ、いろんな要素がごちゃ混ぜになった邪道のお話。怪異の扱い方もちょっと“変”なんです。怪異と怪異の共通する点を見つけて習合させて同じ怪異として扱ったりする“邪道”感がある。『カタリカ』がこれからちょっと面倒くさい、作りこまれた作品になっていくことを提示したかったエピソードでもあります(笑)。
——歴史ある怪異“土蜘蛛”は興味深い存在でした。土蜘蛛に着目されたのはなぜですか?
逢縁奇演:すごく古くからいる怪異なんですよ。その昔、朝廷が、ただの人間であるはずの敵を化け物として見ていたっていう。要は物の見方の違いですよね。それって『カタリカ』のテーマとつながるところがあって。最初はただの人だった土蜘蛛が、歴史を経て妖怪となった。さらに現代、僕らの知らないような村では新しい名前がついた、新しい姿の怪異になっているかもしれない……。妖怪や怪異が流動的に形を変えていくさまが好きで、土蜘蛛に目をつけました。
——土蜘蛛が現代に生きていたらこんな姿になっているかもしれない。
逢縁奇演:はい。2巻に出てくる犬飼さんというおばあちゃんもずっと虐げられてきた人です。虐げられ、怖がられることで怪異になってしまった。それって土蜘蛛と似ているじゃないですか。じつはこれからもう一つ、怪異が出てくるんですよ。それらの怪異が習合したのが“はっぽんさま”です。
——“はっぽんさま”の謎を追うのが、1巻から登場している笹塚ささみと、2巻で新たに登場する関根というキャラクター。関根はちょっとビビりな一面があり、ささみと一緒にいると相棒感がありました。
逢縁奇演:ささみって怖がらないから、ホラーの主人公としては不適格なんです。だから、ささみとは正反対の暑苦しくてわかりやすくて大袈裟な面白おじさんが隣にいたらいいなと思って。関根さんはこれから準レギュラーになっていきます。シナリオではもっとおじさんっぽかったんですが、クラタさんが面白さを失わないままイケメンお兄さんに描いてくれて、このほうが絶対に良かった!


——ファン層が広がりそうですね(笑)。いっぽう、ホラーの主人公としては不適格だというささみのキャラクター造形で外せなかった点とは?
逢縁奇演:僕の懐疑論者的なところが出ているキャラクターだと思います。怪異にふれた時、怖がる、逃げる、戦うなどいろいろ選択肢がありますけど、僕が描く主人公はやっぱり“解明”してほしい。“これ何なの”という疑問を持ちながら、心の内面で事件について考えられる人間でいてほしかった。それで、冷静かつ能動的に怖い思いをしにいくような人物像になりました。
——そして、謎が多いのが片宮つばめの存在ですね。8年前に失踪したささみの幼馴染ですが、つばめの謎について何かヒントをいただけませんか?
逢縁奇演:『カタリカ』で起きていることは全部つばめちゃんのせいだし、つばめちゃんがいちばん悪いやつなんです。まあ、そこまで悪いやつじゃなくて、いいやつで終わるんですけど(笑)。
語られることで、いずれ禍いが起きてほしいという願いを込めて
——作画のクラタさんもホラーが初めてということですが、怪異の描きこみや世界観の完成度の高さが感じられました。作画で気に入っている点があれば教えてください。
逢縁奇演:やっぱり主人公のささみちゃんです。ダウナークールという感じで、デザインよし、表情よし。すごく好きで気に入っています。髪の毛の配色、インナーカラーのブルーや、キーカラーの寒色系の印象強さ。とても今どきですよね。そもそも、クラタさんが作画をしてくださるなら、クラタさんの女の子はめちゃくちゃ可愛いので、やっぱり主人公は女の子だろうな、という風に決めた部分もあります。

——そして構成の猪原賽さんは『バキ外伝』などの原作も手がけるベテランです。本作では漫画のネームを担当され、多少のアレンジもあったようですが、驚くような描写もありましたか?
逢縁奇演:いちばん驚いたのは、「きさらぎ駅」に出てくる怖い女の人の怪異が、赤ちゃんを鈍器として振り回してくるところ。こえ〜と思いまして。赤ちゃんを引き連れているデザインは最初にあったんですけど、ええ! それで攻撃してくるんだ!? と(笑)。この恐ろしさ、さすがでした。
——本来なら守られるべきか弱い赤ちゃんをぶん回すという……まさに非道の怪異というインパクトでした! そのあたりの表現の自由さというのは、あらかじめ猪原さんにお願いしていたところなんでしょうか。
逢縁奇演:そうですね。もう好きにやってくださいとお伝えしていました。元々のオーディオドラマでは、音で怖さを出していたんですよ。ヒタヒタ近づく足音とか、恨み言を囁く声とか。でもそれは漫画だと背景になって弱くなってしまう部分。漫画のネームではビジュアル的な怖さを入れてくださったので、感謝の気持ちしかありません。
——5月の“おしるこ”など各巻で小ネタっぽい話もあって、ディテールにも凝っていますね。
逢縁奇演:あれはやっぱり猪原先生のアイデアです。全部で12巻だから、1年を通して5月、6月、7月…と季節感が出るといいなと思っていたんですが、うまいこと表現してくださいました。
——あらためて、『カタリカ―語り禍―』というタイトルに込められた想いを教えてください。
逢縁奇演:百物語(怪談を100話語り終えると本物のもののけが現れるという言い伝え)に「怪を語れば怪至る」という言葉があるんですけど、それが真実だとしたら、僕らが怪談を話したり面白がったりすることで、その場所に怪異を呼び込んでしまうんです。罪深いことですが。
だとすれば、この漫画を読んだ人が他の人にも『カタリカ』の話をして、世界に『カタリカ』という怪の根が植えられていけば、作者冥利に尽きるというか。ホラー作品としてそれ以上望むことはない。語られることで、いずれ禍が起きてほしい、伝播していってほしいという願いを込めて、このタイトルをつけました。
——予想外の展開にページをめくる手が止まらないのですが、どんなことにアンテナを貼りながら制作されているのですか?
逢縁奇演:作業をしている時もYouTubeで怪談を流したり……。最近はアナログホラーというジャンルに大ハマりしていて。肉そのものの生き物をみんなが食べているような風景が90年代くらいの古いカメラで録られている…みたいなホラーなんですが。SCP Foundationやバックルーム作品とかも大好きでよく見ていますね。
※SCP Foundation: SCP財団とも呼ばれ、ルールにのっとった怪奇創作をまとめているコミュニティサイト、またその内容を指す。
※バックルーム作品:The Backroomsと呼ばれる、海外発祥の都市伝説のひとつ。
——そういったものから刺激を受けているのですね。今回ホラーに挑戦されて、これからもいろいろなジャンルの作品を執筆されていくのでしょうか。
逢縁奇演:本業はSFのため、たぶんSFが多くなると思いますが、ホラーも大好きなので、また何かで関わることができればいいなと思っています。『カタリカ』はこれからもっと変なホラーになっていくので、ホラーに親しんだことがない方はもちろん、変なホラーにそろそろ触りたいなっていう方は、ぜひ今後見守っていただけたら非常に幸いかなと思います。

取材・文=吉田あき