怒りを暴走させない「ユニークな対処法」とは? 精神科医が説く“負の感情”に振り回されない心の整え方【書評】

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公開日:2025/6/30

嫌な気持ちにメンタルをやられない 不機嫌を飼いならそう
嫌な気持ちにメンタルをやられない 不機嫌を飼いならそう嫌な気持ちにメンタルをやられない

 ネガティブな感情は、受け止め方に悩む。例えば、怒りや悲しみ、不安などを感じた時、感情が暴走して心の舵が切れなくなってしまう人は意外と多いのではないだろうか。また、負の感情は相手から向けられた時も苦しい。上司やパートナーが不満や怒りをため息や舌打ちなどで表現するタイプだと、付き合い方に頭を抱えてしまう。

 そんな時に役立つのが、『嫌な気持ちにメンタルをやられない 不機嫌を飼いならそう』(藤野智哉/主婦の友社)だ。著者は、精神科医で公認心理師。精神科医として働くかたわら、医療刑務所の医師も務めている。また、自著やメディアでは、自分を犠牲にしない生き方やありのままの自分の受け入れ方を発信。多くの人を癒している。

 本作では、相手や自分の「負の感情」に振り回されない40のメソッドを紹介。目を背けたくなる嫌な感情との向き合い方が学べる。

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「怒りのレベルを正しく理解すること」が怒りに振り回されない第一歩に

 本書には自分の中にある「負の感情」を知ることができるセルフチェックシートが収録されているので、客観的に自分の心を見つめることができる。負の感情の中で最もトラブルに発展しやすいのは、「怒り」。自分の怒りが暴走すると、人間関係がこじれてしまい、誰かからの怒りを受け続けると心が疲弊してしまう。

 そんな難しい感情と向き合う時に大切なのは、まず自分らしい言葉で怒りを表現し、感じている怒りの度合いを認識することだという。例えば、「プチ怒りくん」は怒りレベル1、「スーパー怒りくん」なら怒りレベル3…という具合だ。

 その際は、「このレベルになったら相手に怒りを出してもいい」という基準を設けておくことも大事だという。その基準は、「この出来事はどれくらい怒るべきことなのか」と、自分の怒りを客観視することに繋がるからだ。

 また、怒りと上手く付き合うには「絶対に許せないライン」を決めることも大事なのだとか。「許せない」のライン決めは、機嫌がいい時の自分がどう思うかを基準にしよう。機嫌が悪い時の「許せる」は、範囲が狭くなってしまうからだ。

 こうしたライン決めをしておくと、「許せない」という気持ちがこみ上げてきた時に、それは本当に相手に原因があるのか、それとも自分の機嫌の問題なのかと客観視することもできる。

 なお、著者は怒りと上手く向き合う心理トレーニング「アンガーマネジメント」が成功しなかった方でも実行しやすい“心の落ち着かせ方”やSNS上のやりとりでイラっとした時の対処法も教えている。

 怒りは負の感情ではあるが、持っていてダメな感情ではない。必要な時に怒ることは、自分を守ることに繋がるからだ。味方にできれば怒りは立派な武器にもなる。ぜひ、著者の教えに触れ、怒りの捉え方を見直してほしい。

悲しみに混ざっている「他の感情」に気づいて

 悲しみが心いっぱいに広がると、苦しい。早く消えてほしいと願ってしまうのは、ごく自然なことだ。だが、悲しみと深く向き合うと、自分が知らなかった自分自身や感情に出会えることもある。なぜなら、悲しみには様々な感情が混ざっているからだ。

 悲しみと向き合う際、著者が勧めるのは「悲しい」と感じた出来事に関する感情を書き出し、どんな感情がどのくらいあるのか分析すること。意外と悔しさや怒りもあったと気づくと、「これから努力して見返してやろう」など、悲しみの受け止め方が少し変わることもあるという。

 実際、私はこの受け止め方を実践してみたのだが、悲しみの中に隠れていた自分の本音に驚かされ、初めて気づけた“知らなかった感情”を尊く、愛しく思った。悲しみは「本当の私」に気づくきっかけを授けてくれる大切な感情なのかもしれない。

 なお、本書では悲しみから意識を逸らす「ディストラクション」や悲しみに意義を見出す「認知的再評価」など、他にも様々な対処法が紹介されているので、自分に合う向き合い方を見つけてほしい。

 人間であれば、ごく自然にこみ上げてくる負の感情を「悪者」にせず、どう受け入れるか。そう考える機会を授ける本書は、なんとか心を奮い立たせながら日常を生き抜いている人の救いになるはず。著者は「不機嫌」との向き合い方も説いているので、パートナーや同僚のフキハラ(不機嫌ハラスメント)に悩んでいる方も手に取ってほしい。

文=古川諭香

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