グリコ、神経衰弱、ジャンケン……おなじみの遊びに独自ルールを加えた学園頭脳バトルの行方は? 『地雷グリコ』マンガ版はよりわかりやすく、さらにクセ強に【書評】
PR 更新日:2025/7/29

『地雷グリコ』(白泉社)というタイトルから、なにやら物騒なストーリーを想像する人もいるかもしれない。だが、このマンガでは人が死ぬこともなければ、世間を揺るがす大事件が起きるわけでもない。物語の主軸になるのは、勝負ごとにめっぽう強い女子高生の射守矢真兎(いもりや・まと)。そんな彼女が頭脳バトルを繰り広げる、ギャンブルマンガのような作品となっている。青崎有吾氏による原作小説は、本格ミステリ大賞(小説部門)、日本推理作家協会賞(長編および連作短編部門)、山本周五郎賞などを受賞し、2024年上半期の直木賞候補にも挙がった話題作。このベストセラーを、『めだかボックス』(集英社)などを手がけた暁月あきら氏が見事にコミカライズしている。

高校1年生の「私」こと鉱田は、中学時代からの真兎の友人。彼女の勝負強さに着目した鉱田は、文化祭での屋上使用権をめぐる戦い、通称《愚煙試合》に真兎を引っ張り出すことに成功する。生徒会役員を相手に真兎が挑むのは、「グリコ」をアレンジしたオリジナルゲーム「地雷グリコ」。「グリコ」と言えば、「グー(グリコ)」は3段、「チョキ(チョコレイト)」「パー(パイナップル)」なら6段と、ジャンケンで勝った手に応じて階段を上れるおなじみの遊びだ。だが「地雷グリコ」では、ふたりがそれぞれ3つの地雷を階段に仕掛け、その位置で止まった対戦相手は10段下がらなければならない。もし自分が仕掛けた地雷を自分で踏んだ場合、ペナルティはないものの、対戦相手に地雷の位置がバレてしまうことになる。どの段に地雷を仕掛け、相手の地雷をどのように避けるべきか、真兎と生徒会役員の椚(くぬぎ)先輩は、高度な頭脳戦・心理戦を繰り広げることになる。



ここで注目すべきは、どの手で勝ってもプレイヤーが進めるのは3か6、つまり3の倍数のみだということ。ということは、3の倍数の段に地雷を置けば、相手が踏む確率は高くなる。しかも、地雷を踏んだら10段下がるのだから、ペナルティを最大限に生かすには12段目以降に地雷を仕掛けるのが効果的だ。そうわかったうえで、真兎と椚先輩はどこに地雷をセットするのか。そして、対戦相手を出し抜くためにどんな秘策を用意しているのか。ベースとなるのは昔ながらの遊びだが、独自のルールを加えることで実にスリリングな駆け引きが生まれている。「その手があったか!」という巧みな戦術に、相手をまんまと陥れた時の快感はまさに鳥肌ものだ。
さらにコミックス2巻になると、坊主めくり×神経衰弱のような「坊主衰弱」、ジャンケンに独自の手を加えた「自由律ジャンケン」によるバトルも勃発。イカサマ上等のかるたカフェ店主、全身校則違反の強烈生徒会長と、対戦相手の手ごわさもバトルを重ねるたびに限界突破していくからワクワクが止まらない。


この手の頭脳バトルは、ルールが複雑で途中から何がどうなっているか見失いがちだが、その点も心配は無用だ。ルールやロジック、試合動向がわかりやすく視覚化されているうえ、あとから読み返すと「あの時、実はこんなことをしていたのか!」という伏線もきっちり描かれている。普段、頭脳戦マンガを読んでも「よくわかんないけど、登場人物の頭がいいことだけはわかった」というぼんやりした感想で終わってしまう読者(私だ)でも脱落せずに読めるのは、原作のわかりやすさに加え、コミカライズを手がける暁月あきら氏の手腕によるところも大きい。

さらに、マンガになったことで、けれん味たっぷりのキャラクターの魅力も引き立っている。普段はぽややんとしているギャル風の真兎、カタブツ系秀才眼鏡の椚先輩もさることながら、男子制服&シルバーアクセでバチバチにキメた生徒会長・佐分利錵子(さぶり・にえこ)の登場シーンのインパクトたるや! ただでさえクセの強いキャラが、マンガになってさらにこってり濃厚に仕上がっている。そんな佐分利生徒会長がある人物の名前を出したことで、真兎の様子が一変するのも興味深い。その人物と真兎はどんな関係にあるのか。「『人生はゲームだ』なんてふざけたことを抜かすやつを信じちゃダメだよ」「『人生』はなかったことにできないじゃん!」という言葉の真意はどこにあるのか。真兎をめぐる謎も、話数を追うごとにどんどん深まっていく。7月29日に2巻が発売されるところだが、早くも3巻以降の展開が気になって仕方ない。
時にブラフを交えながら互いの手を読み合う頭脳戦、特濃キャラクターが繰り広げる人間模様、学園ものならではの圧倒的な青春感など、読みどころの多いマンガ版『地雷グリコ』。ギャンブルマンガ、知的バトルマンガの入門編としてもおすすめしたい作品だ。
文=野本由起
