限りある時間を自分ならどう生きるか 真正面から愛を描いた珠玉の人生賛歌【レビュー】
公開日:2025/7/25
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。
雑誌『ダ・ヴィンチ』の人気コーナー「カルチャーダ・ヴィンチ」がWEBに登場! シネマコーナーでは、目利きのシネマライターがセレクトする“いま観るべき”映画をピックアップしてご紹介します。

『We Live in Time この時を生きて』
監督:ジョン・クローリー
出演:フローレンス・ピュー、アンドリュー・ガーフィールド
2024年フランス、イギリス 108分
配給:キノフィルムズ 6月6日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
●やり手シェフのアルムートと、離婚して失意のどん底にいたトビアス。ありえない出逢いから恋におち、何度も危機を迎えながら娘が生まれ、家族になる。そんななか、アルムートの余命がわずかと知ったふたりが選んだ、型破りな挑戦とは……。
もしも突然、人生の残り時間が少ないことに気づいたら? 限りある時間を、自分ならどう生きるか―『ミッドサマー』でその名を世界に轟かせ、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』ではアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたF・ピュー。ハリウッドで快進撃を続ける彼女が、母国イギリスが舞台の人生賛歌で代表作を更新した。
ピューが命を吹き込んだのは、がんが再発し余命わずかを覚悟するヒロインだ。逆転の可能性にかけながらも、苦しい治療に耐えるだけの「陰気な1年より、最高に楽しくて前向きな半年」を過ごしたいとパートナーのトビアスに宣言するアルムート。その想いを汲みつつも、自分や幼い娘のためにも仕事をセーブし、治療に専念してほしいと願うトビアス。そんなふたりの関係が、出逢いからの数年、がん再発からの半年、そして娘が生まれた日の3つの時間軸をシャッフルしながら紡がれてゆく。
痛すぎるふたりのなれそめ、ありえないシチュエーションでの出産。悲劇と喜劇は紙一重なふたりの歴史を紐解きながら、挑戦をあきらめないアルムートと彼女に寄り添うトビアスの姿を焼きつけた構成が鮮やか。英国流ジョークや大人のユーモアが利いたセリフがちりばめられ、涙以上に笑いがこぼれるのも今作の大きな魅力だろう。ピュー&A・ガーフィールドのケミストリーがまた格別で、正反対だからこそ惹かれ合うキャラクターに説得力と深みを与えている。トビアスと父親の穏やかな時間、アルムートと助手ジェイドの絆もさり気なく刻まれて、この世界には愛があふれていることを伝えてくれる。
文=柴田メグミ
しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。