辻村深月×桜田ひより 映画『この夏の星を見る』公開記念対談【インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/7/5

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。

コロナ禍で複雑な思いを抱える中高生たちの挑戦と青春を描いた映画『この夏の星を見る』。原作者の辻村深月さんと、辻村さんのファンだという、亜紗役の桜田ひよりさんに、作品の魅力について語り合っていただきました。

辻村深月さん(以下、辻村):映画『この夏の星を見る』、とても素晴らしかったです。印象的なシーンはたくさんありますが、とくにスターキャッチコンテストのシーンがかっこよかったです! 桜田さんはもちろん、俳優さんたちの運動神経のよさ、体幹の強さ、何より所作の美しさが際立っていて。スターキャッチを競技として美しく、かつ、かっこよく見せることにこだわって撮影してくださったことが伝わってきました。

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桜田ひよりさん(以下、桜田):スターキャッチコンテストのシーンについては、監督から「キレよく! かっこよく!」とお達しがありました。望遠鏡を操作する人と星を探す人の二人一組で行う競技ですが、人物の組み合わせや息の合わせ方によって、星を見つけるスピードが変わってくる。まさにチームプレーなんです。望遠鏡の操作については「この星はこの位置」と決められた場所にスムーズにセットできるよう、何度も何度も練習を重ねました。みんなと一緒に練習するうちに少しずつチームワークが育っていった気がします。

辻村:岡部たかしさん演じる天文部の顧問・綿引先生も含めて、本当の部活動みたいな空気感があふれていましたよね。

桜田:岡部さんはすごく気さくな方で、世代が離れている私たちにも優しく声をかけてくださいました。ちょこちょこアドリブを入れてこられるので、対応力が身についたり、素の表情が出せたりと、みんなにいい影響を与えてくださったと思います。本当の先生と生徒みたいな関係性だったので、それが映像に映っていたらすごく嬉しいです。

辻村:花壇の前にいる綿引先生に向かって、亜紗が駆け寄ってきて「(コンテストを)オンラインでやります!」と告げるシーンがありますよね。私、そこがすごく好きです。

桜田:綿引先生はそっけなく返事をして、土いじりを始めるんですよね(笑)。

辻村:そうそう(笑)。本当は「生徒たちが自分たちで動き出した」と感激しているはずなのに、それを見せない感じがいいんです。でも後半で「ちゃんと考えてくれていたんだ!」と伝わるシーンがあって、その信頼関係が素敵でした。綿引先生だけでなく、全国各地で子どもたちの挑戦を見守る大人たちがたくさん登場します。彼らの存在もこの映画の魅力のひとつなので、ぜひ注目してほしいです。

感情をいかに目だけで表現するか試される現場だった

辻村:舞台がコロナ禍なので、マスクをつけた演技が必要でしたね。大変だったのではないでしょうか?

桜田:そうですね。表現する上で口元の表情ってすごく大事ですから、それが見えない状態で演じるのは難しかったです。表現を間違えれば違った感情に映ってしまうので。いかに目だけで表現するか、それが試される現場でした。とはいえ日を追うごとにその環境にも慣れ、マスクをつけて演技をするのが普通のことに。コロナ禍の時とまったく同じで、逆にマスクを外す時のほうが緊張するというか。

辻村:監督からはどんなアドバイスがありましたか?

桜田:飲んだり食べたりする時のマスクの外し方ひとつで個性が出せるし、素材や色でもその人らしさが表現できる。だから「マスクを自分のものにしてほしい」と。

辻村:「マスクを自分のものにする」ってかっこいい言葉ですね。撮影中、「マスクをつけていても大丈夫。桜田さんの目の演技が素晴らしく、目のなかに星が見える」と監督がおっしゃったと聞いていたのですが、映画を見た時、「このことだったのか!」と納得したんです。桜田さんの目のなかに本当に星が見えました。

桜田:本当ですか? 嬉しいです。ありがとうございます! じつは私、この役を演じる前から辻村さんの小説が大好きだったんです。辻村さんの作品は一気に物語の世界に入れて、読めば読むほど想像力が豊かになる感覚があるんです。

辻村:わあ、嬉しい。誰かに薦められて手にしてくださったんですか?

桜田:いえ、書店で見つけて購入しました。中でも『かがみの孤城』と『傲慢と善良』が好きで、夢中で読んだ記憶があります。とくに『かがみの孤城』は、読んだ当時、主人公たちと同世代だったので、「もし自分がこの世界に入ったら何をお願いするだろう?」と、想像が膨らみました。

辻村:こころと同じ中学生の時に私の小説と出合ってくれた桜田さんと、大人同士でこうして今、仕事ができるって、すごく幸せなことです。

桜田:過去の自分に「いつか辻村さんと一緒にお仕事できるよ」って言ってあげたいです(笑)。今回、亜紗として辻村さんの作品の中に入れることが嬉しくてたまりませんでした。亜紗は元気で明るくて、芯のある女の子。「クラスにこんな子がいたらいいな」という理想像であり、みんなに影響を与えるリーダーです。そこをブレずに演じ切るために、参考書のように原作を何度も読ませていただきました。映画と小説では、表現方法が違ったり、同じ出来事を別の角度から描いてあったりします。違いを比較する意味でも、ぜひ原作も読んでいただきたいです。

過去には帰れないからこそ10代が主人公の小説を何度も書く

辻村:10代の頃の私の日々は平凡で、亜紗たちのような青春を経験していないと思っていたんです。でも振り返ってみると、何気ないことが楽しかったし、すべてに価値があったと今は気づけます。この目線を持ったまま過去に帰ってやり直したい(笑)。でも帰れないからこそ、10代が主人公の小説を何度も書いているのかもしれません。桜田さんは、もし学生に戻れるとしたら何がしてみたいですか?

桜田:バスケ部か放送部に入りたいです。運動ができる人や美しい日本語が話せる人ってかっこいいと思うので。

辻村:桜田さんを主人公にした小説はすごく書き甲斐があります。バスケならインターハイを、放送部ならNコン(NHK杯全国高校放送コンテスト)を目指してもらって(笑)。いろんな人生を生きられる俳優って、大変だけど楽しい職業ですよね。作家もいろんな年齢の人物になって、いろんな世界を生きられる。お互い、創作する仕事に就いているんですね。

桜田:共通点があって嬉しいです。

辻村:この先、桜田さんがいろんな役を演じているのを見るたび、身内のような気持ちになる気がします。「うちの亜紗が、立派なキャビンアテンダントになって!」とか「総理大臣として内閣を率いている!」とか(笑)。成長に涙しそうです。

桜田:ありがとうございます。いろんな人生を演じられるように、これからも頑張ります!

取材・文=高倉優子、写真=干川 修 
ヘアメイク=TATSURO(辻村さん)、池上 豪(NICOLASHKA)(桜田さん) 
スタイリング=前田涼子(桜田さん)
衣装協力(桜田さん)=ワンピース1万7600円(COCO DEAL☎03-4578-3421)、イヤーカフ4万9500円、リング1万5400円(ともにLOHME/info@lohme.jp)(すべて税込)

つじむら・みづき●2004年、『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で直木賞、18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。『凍りのくじら』『傲慢と善良』『闇祓』など著書多数。

さくらだ・ひより●2002年、千葉県生まれ。幼少期から芸能活動を始める。映画『交換ウソ日記』『バジーノイズ』『大きな玉ねぎの下で』、ドラマ『silent』『相続探偵』など話題作に多数出演する。

映画『この夏の星を見る』 7月4日(金)全国公開

©2025「この夏の星を見る」製作委員会
©2025「この夏の星を見る」製作委員会

出演:桜田ひより、水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗、早瀬 憩、星乃あんな 
原作:辻村深月『この夏の星を見る』(角川文庫/KADOKAWA刊) 
監督:山元 環 
脚本:森野マッシュ 
音楽:haruka nakamura 
主題歌:「灯星」 haruka nakamura + suis from ヨルシカ (Polydor Records)
公式サイト:https://www.konohoshi-movie.jp/

●コロナ禍で登校や部活動が制限されていた2020年。茨城の高校2年生・亜紗の提案で、茨城、東京、長崎の五島列島をオンラインでつなぎ、望遠鏡で星をつかまえる競技「スターキャッチコンテスト」が実施されることに。活動はやがて全国へと拡がり、奇跡を起こす。

『この夏の星を見る』(上・下)
『この夏の星を見る』(上・下)辻村深月 角川文庫 各902円(税込)
『この夏の星を見る』(上・下)
『この夏の星を見る』(上・下)作:辻村深月 絵:那流 角川つばさ文庫 各990円(税込)

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