【第31回電撃小説大賞《電撃の新文芸賞》受賞作】洞窟暮らしの少女の空の旅。閉鎖的な村から飛び出した少女が出会ったのは… 大人も思わずのめりこむ! 感動のジュブナイル小説【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/7/17

明けの空のカフカ
明けの空のカフカ水品知弦/KADOKAWA

 冒険が、呼んでいる。胸がバクバク高鳴り、思わず口角が上がる。見知らぬ世界に飛び出すこの上ない高揚感。勇気を出していざ飛び立てば、眼前に広がる世界の美しさに、何だか目頭まで熱くなってきた。

 はじめは、「子どもにいいかも」と思って読み始めたはずだった。それが、大人の私までこんなにも心動かされてしまった。そんな本が『明けの空のカフカ』(水品知弦/KADOKAWA)。第31回電撃小説大賞《電撃の新文芸賞》を受賞した至高のジュブナイルだ。この本は、子どもが読んでも大人が読んでも面白い。というか、こんなにワクワクさせられる本を読まないなんてもったいない。児童書ファンはもちろん、文庫ファンや一般文芸ファン、そして、「普段あまり本は読まない」という人・子どもにも、世代を問わず読んでほしい1冊だ。

 主人公は12歳の少女・カフカ。お年寄りばかりが20人ほどで暮らしている浮遊洞窟村に住む唯一の子どもだ。この村は閉鎖的で空が見えず薄暗く、光源は自生している蛍光きのこだけ。物心つく前からこの洞窟村で暮らしてきたカフカは外の世界を見たことがなく、外への憧れを感じずにはいられなかった。ある日の夜、カフカが出会ったのは、地上からの来訪者・ハヤテ。なんと彼は、ヒトとは違う犬の特徴を持つ獣人だった。ハヤテによれば、この世界の人類のうちヒト類が占める割合は小数点以下で、地上では多くの獣人たちが暮らしているのだという。「大人になってもまだ俺のこと覚えてたら会いに来いよ」というハヤテの話に感化されたカフカは、大人になるまで待ち切れなくなり、ついに家出を決意する。村人たちの反対を振り切り、亡き祖父が遺した飛行機〈コチ三〇六〉で夜明けの空へと飛び出したカフカ。目指すは、ハヤテの暮らす街、そして、亡き祖父の親友が住む家。カフカは冒険の果て、一体どんな景色を見ることになるのだろうか。

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 ページをめくれば、この物語の世界にあっという間にのめり込んでしまう。外の世界を知らないカフカの純粋さ、まっすぐさを知るにつれて、カフカの冒険に苦難が訪れないことを祈るように読み進めたが、そんなのは杞憂。不安を感じさせる真っ暗な空に、やがて炎みたいな鮮やかなオレンジ色が溢れ出して朝が訪れ、太陽がカフカの進む道を照らしてくれる。そうしてたどり着いた先、イヌ類のハヤテは兄貴分らしく「もうきたのか」と嬉しそうにすぐに寮の空き部屋を融通してくれるし、同じ寮に住むリス類のお姉さん・チルも優しい。カフカと同い年のネコ類のクレオには、最初は嫌われちゃったみたいだけど……。思い切って飛び出した世界は、そのどれもが輝いていて、感じたことのないほどの心の高ぶりを味わわせてくれる。

 だが、どうして、浮遊洞窟村のお年寄りたちは、カフカが外に行くことを「危険だ」と止めたのだろうか。何も意地悪をしていたわけではないはずだ。温かく見守ってくれる大人たちや同世代の友達と出会い成長するカフカは、やがてこの世界で50年前に起きた悲しい出来事について知る。「大切じゃなきゃ、心配なんてしない。危ないことを止めたりもしない」。お年寄りたちがカフカにどれほどの愛情を注いできたのかに改めて気付かされたカフカは……。

「冒険とは、金塊の眠る島への道程を指すばかりではない。それは歩き慣れた家路からたった一本外れた道に踏み出すときのときめきであったり、故郷に背を向けた日の空に見た希望であったり、例には事欠かない。そう、君の人生の全てが尊い冒険なのだ」

「何だか毎日つまらないな」と感じているならば、この本を読むべきだ。この本は、間違いなく、あなたをこの上ない冒険へといざなってくれる。この世界にはたくさんのドキドキがそこらじゅうにあふれているのだ。ああ、私ももっといろんな世界を知りたい、見てみたい。この本を読んだら、あなたもきっと見ず知らずの場所に飛び出してみたくなるはず。この胸の高鳴りを、あなたにも是非とも体感してほしい。

文=_アサトーミナミ