「バッグで殴ってやりたい」親の介護疲れから、精神的に追い詰められ暴力を振るう衝動にかられる主人公。追い詰められる介護者の姿を描いた『余命300日の毒親』【著者インタビュー】

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公開日:2025/8/2

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※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

 小さい頃から自分を罵倒し暴力を振るってきた父が、がんで余命1年と宣告された。一人娘・ヒトミはなるべく父と関わらずにいられるように介護サービスを検討、実行に移す。しかし父は他者の介入を拒絶。頼れる親族もいないヒトミに全ての負担がのしかかる。相変わらず心無い言葉を浴びせる父。育児と仕事にも影響が出るほどの物理的負担。やがてヒトミには“介護うつ”の症状が出始めて……。

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 毒親、介護、ふたつの要素が絡み合う『余命300日の毒親』(枇杷かな子:著、太田差惠子:監修・解説/KADOKAWA)。自身も親の介護中に描いたという著者の枇杷かな子さん。ご自身も“介護うつ”になったという枇杷さんの介護の経験、多忙な中でも本作を通して伝えたかったことを聞きました。

――本作を描く上で、一番苦労したところはどこですか?

枇杷かな子(以下、枇杷):この作品って、結構お父さんが強い言葉を使っていて。これまでそういったものが一切なかったので、読者の方の反応は怖いですね。テーマもテーマですし、描いていると救われる自分がいる一方で、大きな苦しみとか恨みを感じさせてしまうんじゃないかと。読んで、当時のことを振り返って恨み直してしまう、というのは避けたいなと思っていました。

――恨み直してしまわないためにこうした、という部分はありますか?

枇杷:そこが本当に難しくて…… 父親をソフトにしたり、美談でまとめるというのはしたくなくて。最後には少しでも前を向けるように、こうしたらヒトミは少し報われたよ、というのを情報を手繰り寄せて描いていきました。ソーシャルワーカーさんやケアマネージャーさんにも話を聞いて、少しでも前を向けるラストにしようと。

――描いていて印象に残っているシーンはどこですか?

枇杷:「バックで殴ってやりたい」とか、ヒトミがイライラを募らせてお父さんに危害を加えたいと思うシーンですね。私もヒトミと一緒で実際に行動に移したことは一度もないのですが、頭の中では何度か思っていたので。思っていても実行に移さなかったのはもちろん良心もありますが、「やった後に自分の人生終わっちゃう」「子どもに迷惑かかっちゃう」という自分の人生を終わらせないための選択です。

――今後描いていきたいセミフィクションのテーマはありますか?

枇杷:描きたいものはたくさんあるのですが、また毒親については描きたいですね。本書に出てくる毒親は、“恐怖で縛り付ける”という皆さんがよくイメージしやすいタイプだったと思うんです。でも本作を描くにあたって、『毒親介護』の石川先生にお話を伺った時に“毒親”と言っても本当に複雑なパターンがあることを伺いました。いろいろなタイプの毒親が出てくる作品を描きたいというのはあります。

 それに本書では、セミフィクションとして創作を混ぜた作品を描く中で、自分にも引き出しって意外とあるんだなと気づいて。次は自分が体験していない未知の世界を取材して、その方の言葉・状況・感情を受け取って、それをこぼさないように描いてみたいという気持ちもありますね。

文・取材=原智香

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