『導光-花は盛りに―』ブックデザイナーの装丁惚れ プロフェッショナルが思わず惚れる、美しき逸品
公開日:2025/8/30
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。
「あなたにおすすめ」されてみた

立方体を思わせる厚みと意外な軽さ、心地よい用紙の質感と全体のやわらかさ、そして溢れるような墨。手にした瞬間、本というより工芸品なのでは?と感じたことを覚えている。

本書は伝統工芸を生業とする家に生まれた写真家が全国の工芸作家を訪ね歩き、インタビューをしつつ写真を撮りためた記録を一冊にまとめたものだ。まさに「形態は内容に従う」を地で行っている。
内容も造本も確かに素晴らしいのだが、独立系出版社から刊行されたいわゆる小ロットの「尖った」一冊だと思われる。つまり、一昔前であればこだわりの書店をはしごし、偶然手に入れていたような奇跡の一冊だ。そんな一冊が自分の手元にいとも簡単にやってきたのが素晴らしい。どれだけ尖っていようと、この本をかなり高い確度で届けられるべき読み手へアプローチしてくるのがオンラインショッピングだ。スパムメールと共にやってくる「あなたにおすすめ」は鬱陶しいことも多いが、購入履歴を頼りに慮ってくれている血の通ったコミュニケーションなのかもしれない。

手工芸に限りなく近いこのような本が、ネットの力に駆逐されつつもその力を利用し、したたかに生き延びていくことを切に願っている。

選・文=三木俊一(文京図案室)、写真=首藤幹夫
みき・しゅんいち●1973年生まれ。近年の担当作に『ひとりで食べたい わたしの自由のための小さな冒険』『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』などがある。