タコvs新人の仁義なき戦い!? 飼育員の情熱と偏愛に満ちたコミックエッセイで描かれる“水族館の裏側”

文芸・カルチャー

更新日:2025/7/17

水族館飼育員のただならぬ裏側案内
水族館飼育員のただならぬ裏側案内なんかの菌/集英社インターナショナル

 色とりどりの魚たちが泳ぐ水槽や、愛らしい海獣たちのパフォーマンスが見られる水族館。しかしそれは表の姿に過ぎず、裏側には来館者の目に触れることのない知られざる世界が広がっている。そんな水族館の舞台裏を描いているのが、2025年7月4日(金)にリリースされた『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』だ。

『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』は水族館で展示されている生き物や設備、そこで働く人々の裏側を綴った4コマコミックエッセイ。元水族館の飼育員である著者・なんかの菌氏の視点から、現場のリアルがユーモラスに描かれている。

 水族館といえば、イルカやサメ、ペンギンやアザラシといった人気者たちに注目が集まりがち。その一方で、遜色ない面白さを秘めているにもかかわらず来館者からスルーされてしまう生き物も少なくない。

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 ヒトデやヤドカリ、クラゲの赤ちゃんや近くの川で採集されたサワガニなどなど……。水族館の裏側では、彼らがうごめく「地味水槽」も含めた“主役たち”の魅力を伝えるために、日々飼育員たちが奮闘している。

 その一例として、同書では水槽の生き物について記した「魚名板(解説パネル)」について深掘り。実は写真を1枚撮るにも動きの読めない生き物の一瞬を捉えなければならないため、忍耐力が試される。「新人VSタコ」という4コマでは、そんな仁義なき戦いの模様が描かれている。

 また写真に添えられている短い解説文にも、来館者には見えない飼育員の努力が詰まっている。同書によると、言いたいことを100分の1程度に削って何度も推敲して校正を経て、ようやく完成するのだという。つまり「魚名板」は、飼育員の生き物に対する愛情が詰まった代物なのだ。

 そんな水族館のディープな世界を余すことなく綴っている『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』。構成も大きな魅力となっており、海水エリア、淡水エリア、海獣エリア、そしてバックヤードと、まるで実際に水族館を歩いているような没入感を味わえるはず。

 ほかにも、なんかの菌氏の現場経験が生かされた飼育員のリアルな日常や、あるあるネタなど水族館好きにはたまらない情報が盛りだくさん。加えてカバー裏に架空の水族館「ただならぬ水族館」のパンフレットを掲載するなど、細部までこだわり抜かれた一冊となっている。

 飼育員やスタッフたちの情熱と偏愛に満ちた『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』を手にとって、まだ見ぬ水族館の魅力を堪能してみてほしい。

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