仕事、恋、結婚――ままならぬ人生に 揺れる女性たちの友情を描く珠玉作『私たちが光と想うすべて』【レビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/8/1

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。

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『私たちが光と想うすべて』

監督:パヤル・カパーリヤー 
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム 
2024年フランス、インド、オランダ、ルクセンブルク 118分 
配給:セテラ・インターナショナル 7月25日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開 
PG12

●インドの大都会で働く寡黙な看護師プラバと、オープンな性格の同僚アヌ。仕事、結婚、恋の悩みを抱えたふたりは、立ち退きを迫られ帰郷する未亡人、プラヴァティを見送るため海辺の村へ旅をする……。

 カンヌ国際映画祭グランプリ受賞を皮切りに世界各地の賞レースを席巻。毎年恒例のオバマ元大統領のお気に入り、2024年のベストリスト入りも果たした話題作が公開!

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 インド最大の都市ムンバイで働くベテラン看護師のプラバと、年下の同僚アヌはルームメイト。けれど職場と自宅を往復するだけの生真面目なプラバと、何ごとも楽しみたい陽気なアヌの間には、少し心の距離があった。プラバは親が決めた相手と結婚したが、ドイツで仕事をみつけた夫からは1年以上、何の音沙汰もない。そんな彼女に、医師のマノージは何かと気遣ってくれる。一方、アヌにはイスラム教徒の恋人がいた……。

 ゲリラ撮影と思しきムンバイの夜の風景に街で暮らす人々の声が重なってゆき、やがてアルカイックスマイルを浮かべたプラバが登場する一連の冒頭シーンで、たちまち恋におちる今作。メガホンを執ったのはムンバイで生を受け、ドキュメンタリー作家として最初に頭角を現した新鋭、カパーリヤーだ。初長編劇映画となる今作でも、フィクションをノンフィクション的にアプローチ。夫以外の男性に淡い想いを抱くプラバ、異教徒と恋愛中のアヌ、そして街を離れるパルヴァティ――世代も性格も境遇も異なる3人の、静かだけれど確かな友情の物語を、何気ない日常と地続きの世界で紡いでいる。

 ままならぬ人生に揺れ惑う3人を演じきった女優陣のアンサンブル、第4のキャラクターというべき〝夢と幻想の街〟を包む柔らかな光の数々も眼福の極み。彼女たちの心情に寄り添ったドリティマン・ダスことTopsheの音楽までが愛おしい。

文=柴田メグミ

しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA
SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。

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