〈感動実話〉の映画化のはずだった――自伝小説の「真相」に迫る助監督の葛藤と選択【北村有起哉『逆⽕』インタビュー】
公開日:2025/8/2
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。
雑誌『ダ・ヴィンチ』の人気コーナー「カルチャーダ・ヴィンチ」がWEBに登場! シネマコーナーでは、目利きのシネマライターがセレクトする“いま観るべき”映画をピックアップ。その舞台裏を、作品に携わる方々へのインタビューで深掘りします。
それは〈感動実話〉の映画化のはずだった――自伝小説の「真相」に迫る助監督の葛藤と選択

〈実話〉と銘打たれた新作映画の感動ストーリーが、嘘だとしたら――『ミッドナイトスワン』の内田監督によるヒューマンサスペンスで、“真実”に翻弄される助監督の野島浩介を体現。
「テーマは重いですけど視点がユニーク。“こういう人いる”と思える登場人物を含め映画制作の裏をリアルに描き、業界やヤングケアラーに対する監督の想いがいろいろ込められている。ありそうでなかった作品、というのが脚本の第一印象でした。」
スタッフからの信頼が厚い野島については
「イメージでは慶応大学の出身。通信社に就職したものの、30歳くらいで思いきって好きな映画の道に転職した。ジャーナリズム精神は通信社時代に培われたのでしょうね。そんな裏プロフィールをガイドに役づくりをしていきました。映画界には“この人がいれば現場は絶対に大丈夫”というスーパー助監督がいるんですが、近い存在みたいな。一方で家庭は崩壊していて、夫や父親であることから逃げている。それがこの映画の面白いバランスだと思いました。もし家庭がうまくいっていたら、あれほど真実を追求せず見て見ぬ振りをしたかもしれない。だけど私生活の反動から、せめて仕事には正直に向き合おうと必死なんだと思います。」
野島の葛藤を表現するにあたっては
「次につながる座組の仕事に臨む晴れやかな気持ちの冒頭から、次から次へと生じる小さなズレから受ける動揺を、平静さで抑えつけるイメージ。オーバーにならないよう意識しました。ちなみに原っぱで佇んでいるシーンは台本にも書かれていなくて、監督が現場で思いついたんです。撮影場所のすぐ隣に原っぱがあって、空いた時間に『そこで何かやってください』と突然、振られたフリースタイルの演技でした。7、8分やったかな。野島の心象風景として登場しますが、個人的にもすごく印象深いシーンになりました。」
取材・文=柴田メグミ、写真=鈴木慶子
ヘアメイク=上地可紗、スタイリスト=吉田幸弘
きたむら・ゆきや●1974年4月29日生まれ、東京都出身。98年に『カンゾー先生』で映画デビュー。その後、数多くの映画やドラマ、舞台に参加。近年の主な映画出演作に、『新聞記者』『浅田家!』『本気のしるし』『ヤクザと家族 The Family』『すばらしき世界』『前科者』『百花』『終末の探偵』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『キリエのうた』『愛にイナズマ』など。

『逆⽕』
監督:内⽥英治
出演:北村有起哉、円井わん、岩崎う⼤(かもめんたる)、⼤⼭真絵⼦、中 ⼼愛
2025年日本 108分
配給:KADOKAWA 7月11日よりテアトル新宿ほか全国順次公開 PG12
●映画監督を夢みる助監督・野島の次なる仕事は、貧困のヤングケアラーでありながらも成功したARISAの自伝小説の映画化。だが野島が周辺で話を聞くうちに、ある疑惑が浮かび上がる。この女は悲劇のヒロインか、それとも犯罪者なのか?
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