歌人・岡本真帆が『死にプロ』をイメージした連作短歌を詠む!「恋人じゃなくてもきみは優しいね」切なくも美しいラブストーリー【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/7/28

――前の人生から“死に戻り”、恋人の死を阻止するために奮闘する。切なさとときめきが交錯する恋愛ファンタジーとして話題沸騰中の『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから(※ただし好感度はゼロ)』(KADOKAWA)。『死にプロ』の愛称で親しまれる本作は、シリーズ累計177万部を突破。大ヒット御礼企画として、人気歌人・岡本真帆さんとのコラボレーションが実現した。

実は以前から『死にプロ』の熱心なファンであることを公言していた岡本さん。今回書き下ろした5首の短歌には、その深い作品愛が随所に込められている。これらの短歌が作品公式Xで公開されると、瞬く間に『死にプロ』ファンの間で大きな話題に。作品世界への深い理解と共鳴に、多くの読者が心を動かされた。

また、岡本さんは、2025年4月に「好き」を軸に綴ったエッセイ集『落雷と祝福 「好き」に生かされる短歌とエッセイ』(朝日新聞出版)を刊行したばかり。今回、『死にプロ』という物語に何を感じ、どのように読み解き、短歌として立ち上げていったのか。そして、このコラボレーションを通して得た新たな気づきとは。「好き」を短歌へと昇華させる、その創作の裏側に迫る。

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出会いはSNS広告。タイムリープ×両片思いに心をつかまれて

――もともとXで『死にプロ』のファンであることを公言されていましたが、本作を知ったのはどのような経緯だったのでしょうか?

岡本真帆さん(以下、岡本):きっかけは、SNSで流れてきた漫画配信サイトの広告でした。いくつかのコマが抜粋されていて、その場で途中まで読めるようになっていたのですが、まずはその絵柄の可愛らしさに惹かれて。実は私、そういった広告をきっかけに漫画を購入することが多くて、この作品もまさにそうでした。

 そのまま配信サイトで単話を読み始めたのですが、魔法学校に通うオリアナが恋人のヴィンセントと共に原因不明の死を迎え、死ぬ直前の記憶を持ったまま7歳の姿に“死に戻る”。そんなタイムリープ要素が描かれているとわかった瞬間に、興味が深まりました。もともとタイムリープものに惹かれがちで、人生はやり直しがきかないものだからこそ、もしあのときこうしていればという視点や、予期せぬ状況のなかで自分らしさを模索し続ける姿に、物語としての面白さを感じます。困難のなかでどう生きるか、どう選ぶかというテーマは、個人的にもすごく好みです。

 だから「死にプロ」も、最初は恋愛ものというより、タイムリープものとして興味を持って読み始めました。ところが読み進めるうちに、ときめきがどんどん止まらなくなって(笑)。これはもう単話で追うのではなく、きちんと単行本で読みたいと思って、その時すでに出ていた巻を電子版で一気に購入しました。そして、1巻を読み終えたときには、もうボロ泣きでした。

――ボロ泣き! どのような点が岡本さんの心を掴んだのでしょうか?

岡本:私、“両片思い”の関係性がすごく好きなんです。お互いに思い合っているのに、その気持ちにまだ気づいていないからこそ“片思い”の状態になっている。そんなすれ違いのもどかしさに魅力を感じます。

 片思いって、相手のことが好きでもぐいぐい行きすぎるわけにもいかないし、かといって相手の気持ちが見えなくて不安になる。その葛藤があるからこそ、感情が揺さぶられるんですよね。そして、それが“両片思い”になると、「早く気づいて!」と応援しながら見守る楽しさも生まれてくる。その過程をヤキモキしながら見つめるのがすごく好きで、すれ違いも含めて、やっぱり両片思いっていいなと思っています。

 また、『死にプロ』では、オリアナは過去に戻るものの、恋人だったヴィンセントはその記憶を持っていない。だからオリアナの想いがどれだけ強くても、ヴィンセントには伝わらないんです。むしろ、まっすぐに想いをぶつければぶつけるほど、相手に引かれてしまうかもしれない。その切なさが前提にあるところもすごく刺さりました。

 そんななかで、特に心に響いたのが、1巻のラストで今生のヴィンセントがオリアナの魅力に気づく瞬間です。道に咲く花に足を止めるあの描写、風景と心情が静かに重なり合うようで本当に美しくて。そこに比喩が差し込まれる感じもたまらなくて、ヴィンセントはきっとこれからオリアナを好きになるんだろうな、と感じさせてくれる。まさに“確定演出”だと思いました。

 そして読者である私は、どこかで俯瞰して見守っているような感覚もあります。このふたりの出会いがどれほどかけがえのないものなのか、演出のひとつひとつからひしひしと伝わってきて……。もう胸がぎゅっと締めつけられて、気づけば泣いていました。

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