地方の異常気象も他人事ではない。豪雨やドカ雪による物流の停滞が生活や経済に与える影響/異常気象の未来予測

暮らし

公開日:2025/7/29

二酸化炭素排出を減らす最良の策

 長期にわたって幹線鉄道が不通になることは、農産物を始めとした物流に大きな打撃を与えます。豪雨は「人災」の一面があります。これまで二酸化炭素削減に本気で取り組んでこなかった政府、そして国民にも責任の一端があると言えます。

 民間企業であるJRには、復旧にかけられる予算に限度があります。鉄道貨物の特性は、大量輸送であり低炭素排出です。単位重量、単位距離あたりの二酸化炭素排出量は長距離トラック輸送の10%未満。トラックよりも圧倒的に地球環境に配慮されています。

 同じく船も低炭素です。長距離輸送をトラックから船と鉄道に切り替えることは温暖化を食い止めるために大いに推進すべき施策なのです。これを「物流のモーダルシフト」と呼んでいます。

 多発する気象災害で幹線鉄道が頻繁に止まってしまうと、荷主の信頼を失わないために、遅れるリスクが少ないトラック輸送に頼ることになります。

 鉄道業界の復旧の速度が遅いのは、幹線鉄道のインフラが前近代的であることに因ることが多いです。線路を所有しているのは、JR旅客鉄道会社の各社。JR貨物は路線に対して災害対策投資ができていないどころか、貨物列車の高速走行へ向けた線路の改良投資もできません。

 JR各社は新幹線が利益の主流なため、地方の幹線鉄道の投資に後ろ向きとなるのは民間企業として当然の選択でしょう。

 鉄道への物流のモーダルシフトは、運輸部門における二酸化炭素排出を減らす最良の策の一つです。それを温暖化で多発する気象災害が拒む形になっています。これも温暖化による負のスパイラルの一例といえます。

 人の移動においても、新幹線や幹線鉄道のほうが地球にやさしいため、モーダルシフトは旅行や出張でも非常に有効です。

 航空機は、移動での二酸化炭素排出量がほかの交通よりも圧倒的に多いです。ヨーロッパでは航空機利用を「フライトシェイム(飛び恥)」と呼び、公務員の短距離移動の出張に航空機使用の制限をかけたり、短距離航空路線に税金をかけたりする工夫がなされています。

 私が所属する大学でも、以前はある程度遠方への出張は航空機が推奨されていましたが、いまは北海道への出張を除いて航空機は推奨されなくなっています。

 日本は諸事情があり、現状では鉄道への物流のモーダルシフトが困難です。本書ではこれ以上の深入りは避けますが、この問題がもっと広く、そしてもっと深く議論され、物流のモーダルシフトが早期に実現されるように世論が醸成してゆくことを願っています。

 災害復旧を扱う官庁と、温暖化対策を扱う官庁が異なっていることが、国の動きを鈍くする一因でしょう。

 省庁間の壁を破ることができる立場にあるのは、国会議員や総理大臣を始めとした政府中枢です。気候危機が待ったなしの瀬戸際であり、人類最大の危機の一つとなっている現状を、行政や政治の中枢を担う彼らにもっと知ってほしいのです。

<続きは本書でお楽しみください>

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