人生も食べることも、有限。余命1年のフードコンサルタントと町中華の看板娘が繰り広げる命がけの晩餐【書評】
公開日:2025/8/25

生きることには限りがある。食べることにも限りはある。
『あと365日の晩餐』(小太刀右京(チーム・バレルロール):原作、須田綱鑑:構成、半月板損傷:作画/秋田書店)は、こんな言葉で始まる。本作は、食べる者と食べさせる者の「命がけの勝負」を描いた痛快なグルメ漫画だ。
行方不明になった姉の中華料理店を1人切り盛りするトビラ。持ち前のタフさと姉のレシピを武器に店を守っていたが、売り上げが伸びずついに閉店を決意。しかし、ひょんなことから出会った余命1年のフードコンサルタント・つかさから手厳しい評価を受け、心に火をつける。斬新なアイデアで自分なりの料理を生み出すことに成功するのだった。自分が苦しみ抜いて向き合い「命がけ」で作った料理を「命がけ」で食べてくれるつかさと、「これからも勝負がしたい」と伝える。つかさの胃袋を掴む料理を作るため奮闘するトビラと、食べることへの並々ならぬ愛を持つつかさの物語だ。美味しい料理とそれを巡る人の様子をコミカルにテンポよく描く一方で、「何を食べ、どう生きるか」という問いを読者に突きつけてくる。
残りの人生で、あと何回食事ができるのか、考えたことのある人は少ないだろう。しかし、つかさは常に自分に残された食事の回数を意識し、いかに美味しいものを食べ、どう幸せに死ぬかを考えている。彼女の食への情熱の奥に、不意に垣間見える死の影。それが、痛快なグルメ漫画という枠に留まらない奥行きあるメッセージ性を、本作にもたらしているのだ。
2人の勝負は、つかさの「いただきます」で始まり「ごちそうさまでした」で終わる。限られた人生の中で出会えた貴重な「1回の食事」に礼節を尽くすその姿勢は、本作でも印象深い。自分は「いただきます」を忘れず言っているだろうか、出された食事を真剣に味わって食べているだろうか……彼女の姿から、そんなことを考えさせられる。
人は食べることなしには生きていけない。本作を読んで今一度、限りある「人生」と「食べること」について思いを馳せてみてほしい。