「5分間リアル脱出ゲーム」の新作は、ホラー作家・梨とのコラボ作品。不穏な謎解きの果てに見える“真実”とは?【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/8/7

5分間リアル脱出ゲーム おしまい
5分間リアル脱出ゲーム おしまい&SCRAP/SCRAP出版)

 体験型謎解きエンターテインメント「リアル脱出ゲーム」で知られるSCRAP。彼らが発行する人気謎解きゲームブック「5分間リアル脱出ゲーム」シリーズに、最新作が登場した。その名も『5分間リアル脱出ゲーム おしまい』(&SCRAP/SCRAP出版)。インターネットを中心に活動するホラー作家・氏とのコラボレーションによって生まれた一冊だ。

 自宅で手軽に、しかし本格的な“脱出体験”が楽しめるシリーズの魅力はそのままに、今回はホラー作品として仕上がっている。果たして、5分間で解ける謎の裏に隠された“真実”とは。実際に本書を読み解き、その異様な読書体験を味わってみた。

 本書には10本の「5分間リアル脱出ゲーム」が収録されている。各章はオープニングストーリー、謎解きパート、エンディングストーリーの三部構成。事前に消せる筆記具とメモ帳、ハサミを用意して謎に挑もう。オープニングストーリーを読んで謎を解き、答えを記入。これを繰り返し、各章のラストクエスチョンに答えていく仕組みだ。

advertisement

 たとえば第1章では、新しい魔法の開発に勤しむ「魔女」が登場する。魔法の完成に必要な杖を失くしてしまった彼女は、読者である「あなた」に声をかける。謎や暗号を解き、杖を見つけてあげよう。このように、「あなた」は困っている誰かに手を差し伸べる役割を担う。ときには秘境駅の駅舎で。ときには管理者不明の一軒家で。さまざまな人たちが、「あなた」の助けを必要としてくる。

 謎解きの難易度としては、かなり高め。脱出ゲームや謎解き本に慣れた読者ならスムーズに進められるかもしれないが、“勘どころ”を掴めていない初心者は苦戦するだろう。しかし安心してほしい。数段階に分けてヒントが用意されているため、うまく活用すれば自力で答えにたどり着けるはず。

 なお、本書の仕掛けのひとつとして、最終的にハサミを使って特定のページを切り取る必要がある。繰り返し遊ぶことはできないため、ハサミを入れる際は、必ず指示に従って慎重に作業してほしい。雑に切り取ってしまうと、肝心の答えがわからなくなる可能性もある。

 各章のストーリー自体に直接的なつながりはないものの、全体を通してある共通点が存在する。章を追うごとに、不穏さを増していく物語。読み進めていくうちに、「何かがおかしい」と感じるはず。勘のいい読者なら、3章あたりで「これはもしや…?」と気づくかもしれない。しかし、その時点ではまだ、本書の“世界”の真実は見えてこない。ざわつく気持ちを抱えながら最終問題にまでたどり着いた者だけが、隠されていた全貌を知ることとなる。

 ただし、心が弱っているときは、本書を手に取るのを控えたほうがいい。落ち込んでいたり、精神的に不安定な状態で読み進めると――確実に、“あちら側”に引っ張られるだろう。実際に私自身も、深夜にひとりで解き終え、結末を見届けたあと、重苦しい気持ちに囚われてしまった。氏自身が言うように、本作が彼の著作の中でも「過去最悪」なことは間違いない。

 また、“自分を善良な人間だと思い込んでいる人”も要注意。「自分が何をしてしまったのか」を理解した瞬間、良心の呵責に苛まれるかもしれない。あるいは、未知の扉を開き、今まで知ることもなかった新しい自分と出会ってしまうか。

 どちらに転ぶかはプレイヤーのあなた次第。くれぐれも心身が健康なときに遊んでみてほしい。

文=倉本菜生

夏にひんやり 怪談・ホラー特集
夏にひんやり 怪談・ホラー特集

あわせて読みたい