『すべての、白いものたちの』ブックデザイナーの装丁惚れ プロフェッショナルが思わず惚れる、美しき逸品
公開日:2025/8/31
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。
白を味わいつくすための本

2024年にアジア人女性初のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンによる、「白いもの」をめぐる物語。巻末の「作家の言葉」によると、白を意味する原題の「흰」は「綿あめのようにひたすら清潔な白」ではなく「生と死の寂しさをこもごもたたえた色」であるという。

カバーをめくって最初に気づく違和感は、判型の半分の位置でカットされた別丁扉。ここで「紙」の存在を意識させられる。そして一番の特徴は、本文が5種類の別々の特徴を備えた白い紙であること。漂白されたような白、暖かみを帯びた白、清潔な白。指先に伝わる感触も変化する。ツルツル、ざらざら。内容との連動はなくただただ移ろっていく紙に、読み進めた分の時間を意識させられるようだ。見返しは包装紙のような片面ツヤ・片面ラフの紙が、前見返しと後見返しとで裏表逆に貼られている。この本一冊の中でどれだけの白の表情に出会えるだろう。

このような造本の積極的な介入は文学に必要だろうか。この本においてはそれぞれが断片のような短編が連なり、それらの間を頭で補完していくような読書体験と、紙片が寄り集まったような造本がちょうどいい距離感で存在しているように思える。内容と造本がセットで記憶に残る存在である。

選・文=成原亜美(成原デザイン事務所)、写真=首藤幹夫
なりはら・あみ●福岡を拠点に活動するグラフィックデザイナー。デザイン事務所、出版社勤務を経て2020年よりフリーランスに。