東北地方で聞いた実話をベースに描かれる、後味の悪い怪談集。読み手の心をえぐる、人間の心の闇が作り出した恐怖体験【書評】

マンガ

公開日:2025/9/12

※この記事には刺激的な画像が含まれます。ご了承の上、お読みください。

 怪談や怖い話の発信方法には様々なスタイルやジャンルが存在しているが、とりわけ自分と変わらない普通の暮らしを送っている人が話す「実際に体験した話」となると、受け取る恐怖のレベルは群を抜いていると思う。

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厭怪談 なにかがいる』(小田イ輔:原作、柏屋コッコ:漫画/竹書房)は、実話怪談作家の小田イ輔氏が、実際に東北地方の各地を巡ってその土地の人々から聞いた、不可思議かつ、後味の悪い話をまとめて漫画にしたもの。どの話も、幽霊の目撃談などといった作り話と感じてしまうものとは全く異なり、いじめや虐待、孤独、無関心などが原因と思われるが、確証もなく検証もできない話が集められている作品だ。

 例えば、法要の最中に突然立ち上がり異常な行動をし始めた喪主の話や、誰も住んでいないはずの実家に明かりが灯る話、死期の近い高齢者が多く入院している病院で見た謎の光の話などである。

 その短編のひとつひとつは、「自分とは関係ない世界の出来事」ではなく、私たちと変わらない生活をしている人々の体験談であり、そして原因も理由もはっきりとせず解決を見ないままストーリーが終わるというリアリティが恐怖を増幅させる。さらに同時に、人間の汚い本性や、見て見ぬふりをしてきた社会の闇が浮き彫りになることによって、ゾワッとする感覚と一緒に、胸の奥にしこりのような異物感や、モヤついたものも残していくのだ。

 本作が描く、ただの怪談話としての説明ができない「身近にある不可解な恐怖」。次の語り部になるのは、あなたかもしれない……。

文=ネゴト / すずかん

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