「死んでも死にきれない」悲痛な情念を抱く怪異たち。堅物公務員&霊に触れられる青年が怪異事件の謎に挑む【書評】

マンガ

公開日:2025/8/23

 恐ろしい怪異の謎をめぐるホラーミステリー、それが『夜行堂奇譚』(立藤灯:漫画、嗣人:原作/KADOKAWA)だ。

 物語は、堅物の公務員・大野木が、怪異現象のクレームを扱う部署に配属されることから始まる。霊能者を探して彼がたどり着いたのは、人ならざる謎の店主が営む骨董屋・夜行堂。そこで店主の使い走りをしていた千早と引き合わされ、ふたりで怪異事件に挑むことになる。

advertisement

 千早は事故で失った右手で死者の霊に触れることができ、その姿を見ることもできるが、怪異を祓う力は持っていない。一方の大野木は、オカルトなどまったく信じていなかった生真面目人間だが、なぜか怪異に好かれやすい体質。

 そんな凸凹バディが怪異に立ち向かい、救いへと導いていく。
 
 人が消える地下道、飛び降り自殺が頻繁に起こる団地の一室、主を探す妖刀……本作では、恐ろしい怪異が奇怪な現象を巻き起こす。

 最初こそ恐怖に背筋が凍るが、物語が進む中で「その怪異がどうしてこんなにも強い情念をもつことになったのか」が紐解かれると、見え方ががらりと変わる。時に切なく、時に悲痛、そして残酷な背景をもつ怪異たちは、それぞれに文字通り「死んでも死にきれない想い」を抱えているのだ。

 ゾクッとしたり、息を呑んだり、じんわり感動したり。緩急のある巧みなストーリー展開にページを捲る手が止まらなくなるだろう。

 シリアスやホラーな描写はしっかりとありつつも、愛すべき人柄をもつ登場人物たちの掛け合いが挟まることで、重い気持ちを引きずらずに読み進められるバランス感も絶妙だ。

 また、物語が進むごとに、謎めいていたキャラクターたちの輪郭が少しずつはっきりしていくのも見どころである。シリーズ第2巻では千早が「霊と触れ合える右腕の幻肢」を得たときの話が語られ、最新第3巻では千早の姉弟子である妖艶な仙女の活躍が描かれる。

 さまざまな因縁をもつ怪異に、彼らはどう向き合うのか。手に汗握る展開を、ぜひ楽しんでほしい。

文=ネゴト / 桜小路いをり

『夏にひんやり 怪談・ホラー特集』を読む!
『夏にひんやり 怪談・ホラー特集』を読む!

あわせて読みたい