舞台『ぼくらの七日間戦争2025』上演記念対談 田中樹×宗田律

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/8/22

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年9月号からの転載です。

大人社会に抗う中学生たちの痛快群像劇『ぼくらの七日間戦争』が刊行され、今年で40周年。著者の宗田理さんは昨年95歳で亡くなられたものの、作品に込めた思いは今も受け継がれている。そんな中、8月から同作を下敷きにした舞台『ぼくらの七日間戦争2025』が上演された。主演の田中樹さんと、宗田理さんの創作活動を長年支え続けてきた息子の宗田律さんの対談をお届けする。

田中樹さん(以下、田中):僕は「田中樹にお願いしたい」と指名していただく仕事は、基本的にすべてお引き受けすると決めているんです。ただ、今回は単独主演で公演数も多いし、何よりも『ぼくらの七日間戦争』という大切な作品をお預かりすることにプレッシャーを感じて。事の重大さに気づいて、もうちょっと規模を小さくしたかったなって思ってます(笑)。

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宗田理さん(以下、宗田):樹さんのようなスターに演じていただけて光栄です。『ぼくらの七日間戦争』から始まる「ぼくら」シリーズは、父である宗田理の看板作品です。読者の子どもたちからファンレターをいただくことも多く、中には「病気で余命が短い」「つらくて死んでしまいたい」という切羽詰まった声が届くこともありました。そんな手紙を読むと、父はいてもたってもいられず、本人に会いに行くんです。そして、とにかく喋りたいだけ喋ってもらってから「ぼくらの仲間にならない?」と。その後、実際にその子をモデルにしたキャラクターを「ぼくら」シリーズに登場させていました。父には子どもたちを応援したいという気持ちが常にあり、だからこそ死ぬまで「ぼくら」シリーズを書き続けてきたんですよね。

田中:稽古に入る前に、そのお話を聞けてよかったです。『ぼくらの七日間戦争』は僕が生まれる前の作品ですが、ひとりの作家が生涯を通して作り続けたもの、伝えたかったことを多くの人に届ける機会になればうれしいです。

宗田:父は「ぼくら」シリーズを通して、「悪い大人にだまされるな」「自分の頭でものごとを考えよう」とずっと伝え続けてきました。その背景には、自分が十代の頃の戦争体験があるんです。戦時中は「お国のために命を捨てろ」「アメリカを倒せ」と言っていた大人が、戦争が終わった途端に「夢を持って生きろ」「アメリカを見習え」と何食わぬ顔で言う。「大人は信じられない」と思ったそうです。そんな大人をやりこめる手段が、いたずら。暴力に頼らず、仲間とともに知恵と勇気で立ち向かっていくのが、このシリーズの醍醐味なんです。

田中:舞台でも、原作のメッセージを大事に伝えていきたいです。しかも、生身の人間が演じるからこそ、より濃く表現できると思うんですよね。舞台という形で伝える意味を見出せたらと思います。

考える前に行動する菊地を考え抜いて演じたい

──『ぼくらの七日間戦争』は、中学1年生の物語です。おふたりはどんな中1時代を過ごしましたか?

田中:僕は中1の4月に事務所に入ったので、中学生らしい思い出がないんですよ。体育祭も合唱コンクールもまともに出てないし、打ち上げでみんなが行ったカラオケにもやっぱり行けなくて。でも、その頃は「貯金をしてるんだ」と思ってました。といってもお金じゃなくて、将来楽しいことをするために今頑張ってるんだって意味ですけど。今は時間もお金もあって幸せです(笑)。

宗田:『ぼくらの七日間戦争』が刊行されたのが、僕が中学に入学したばかりの頃でした。しかも、父は「学校の先生に渡してこい」と言うんです。先生がやっつけられる小説ですから、先生がたはどんな思いで読んだんでしょうね(笑)。

──田中さんと主人公・菊地英治の共通点はありますか?

宗田:菊地英治は、いたずらの天才という設定です。とにかく行動力にあふれていて、考えるよりもまず動く。その一方で、親友の相原徹はクールな頭脳派です。僕としては、樹さんはどちらかというと相原に近いイメージがあるんですよね。そんな樹さんが菊地を演じるところが、見どころじゃないかと思いました。

田中:おっしゃるとおり、僕と菊地英治はまったく違うタイプなんです。仕事に関しては、石橋を信じられないくらい叩いてから渡りますから。だから、考えるよりまず行動する菊地という人物を、めちゃくちゃ考え抜いて演じると思います。

宗田:あ、面白いですね! 楽しみです。いつも役に入る時は、緻密に考えて演じているんですか?

田中:僕は役者として一流でもなんでもないので、役柄の理解を深めて役に近づくことで自分が安心したいんです。例えばスポーツ選手の役だったらいつものような顔の手入れは一切しないし、半分ゾンビみたいな役を演じる時はこの生き物がどうやって生命を維持しているのか監督と話し合って。舞台はドラマと違って稽古期間があるので、そこで菊地への理解を深めていきたいですね。

時代が変わっても人間の本質は変わらない

──中学生を演じる難しさは感じていますか?

田中:僕も30歳なので、もう大人じゃないですか。それでも、いまだに世の中や大人にムカつくことはあるわけです。

宗田:どんなことですか?

田中:この業界、いっぱいありますよ(笑)。自分に来るはずだった仕事なのに、1カ月後に別のタレントがやっているとかよくありますしね。「言ってたことと違うな」と思うことも、大人になってからのほうが多いかもしれない。いくつになっても憤りや鬱憤はあるから、大人が中学生を演じても説得力は薄れないと思うんです。

宗田:父のサイン会に、親子で来てくださるファンがたくさんいました。「久しぶりに『ぼくらの七日間戦争』を読んで、中学時代を思い出した」という親御さんも多いですし、大人もスカッとする作品だと思いますね。

田中:ムカつく気持ちを深掘りしていくと、その奥にあるのは誰かに大事にされたいという気持ちだった、みたいなこともあります。確かにそういう感情は中学生のほうが強いかもしれないけど、時代や世代が違っても人間や感情の本質はきっと変わらないはず。だから、『ぼくらの七日間戦争』もこれだけ長い間読み継がれてきたと思うんです。

宗田:悪い大人はいつの時代にもいますしね。しかも、最近はネットに根拠のない誹謗中傷やフェイクニュースがあふれているので、より一層、自分の頭で考えることが大切になっています。今の時代こそ、「悪い大人にだまされるな」という父が発したメッセージがより大きな意味を持つと思います。こうしたメッセージを届けるため、僕が新作『ぼくらの秘密基地』を書かせていただきました。父は生前最後のインタビューで、「女の子を中心とした『ぼくらの七日間戦争』を書いてみたい」と話していました。多くの読者からも同様な要望が届いていたので、その思いに応えたいと思いました。

田中:ぜひ読んでみたいです。今、世の中には作品があふれているので、なかなか情報が届かないじゃないですか。今回『ぼくらの七日間戦争』を舞台化することで、この作品の素晴らしさを、これだけ長く愛されてきたという事実を、ひとりでも多くの方に知っていただきたくて。僕が関わることで、「こういう作品があるんだ」と皆さんの引き出しがひとつ増えたらいいなと思います。

取材・文=野本由起、写真=TOWA
スタイリング=川原真由(田中さん)、ヘアメイク=朝岡美妃(Nestation)(田中さん)
衣装協力=ジャケット12万5400円、パンツ4万700円(ともにDRESSEDUNDRESSED/DRESSEDUNDRESSED ☎03-6379-1214)(ともに税込)、その他スタイリスト私物(田中さん)

たなか・じゅり●1995年、千葉県生まれ。SixTONESのメンバー。アイドル、タレントとして活躍するほか、俳優としてドラマ『ブラック校則』『ACMA:GAME アクマゲーム』『I, KILL』、舞台『DREAM BOYS』などに出演。

そうだ・りつ●1972年、東京都生まれ。宗田理さんの次男。20年以上にわたり、宗田理さんの創作活動を支え、角川つばさ文庫「ぼくら」シリーズすべてに携わる。宗田理さん原案『ぼくらの秘密基地』を7月9日に刊行。

宗田さんの新刊

 『ぼくらの秘密基地』
『ぼくらの秘密基地』(宗田 理:原案、宗田 律:文、YUME:絵、はしもとしん:キャラクターデザイン/角川つばさ文庫) 880円(税込)

中学2年の夏休み、クラスの女子が「解放区」をつくるため、ある場所に立てこもった。女子だけで最高の7日間を過ごすはずが、事件に巻き込まれて大ピンチ!? 宗田理さんが本当に届けたかった、令和版『ぼくらの七日間戦争』!

舞台 『ぼくらの七日間戦争2025』
原作:宗田 理『ぼくらの七日間戦争』(角川文庫/角川つばさ文庫 刊) 
脚本・演出:伊勢直弘 
主演:田中 樹 
2025年8月24日〜11月9日、東京・大阪・京都・愛知・熊本で上演予定

●夏休みに、中学1年2組の男子生徒がそろって姿を消した。大人たちの理不尽な管理や押しつけに反発した彼らが、立てこもったのは廃工場。大人社会への痛烈なメッセージと少年少女の冒険心が光る青春群像劇が、舞台でよみがえる!

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