『その本は』待望の続編! 又吉×ヨシタケのドリームコンビが今度は「お題」対決へ――ヨシタケ作品には登場しそうにないキャラも出現!?【『本でした』書評】
PR 公開日:2025/8/26

芸人で作家の又吉直樹氏と、絵本作家のヨシタケシンスケ氏がタッグを組んだ書籍『その本は』(ポプラ社)。ふたりの男が世界中の「めずらしい本」を探し、その内容を王様に話して聞かせるというストーリーから始まる本書では、両氏が「その本は」というテーマで物語を綴った。温かさと切なさ、ふたりのシニカルなユーモアにも溢れた『その本は』は30万部のヒット。若年層から本好きの大人まで、幅広い人々に愛読された。
続くシリーズ最新作『本でした』(同)が3年ぶりに刊行。今回も「本」がテーマだが、前作と異なるのは、創作の出発点だ。本書の物語は、ある村のはずれにふたりの男が住みついたところから始まる。彼らは、特殊な機械を使って、本のタイトルや1行の文などの少しの手がかりから、破れたりバラバラになったりした本を復元するサービスを始める。
本書では、又吉氏とヨシタケ氏がそれぞれに対して「その本は、○○○が○○○でした。これってどんな本でした?」というお題を出し、それに応える形でふたりが、小説と、絵+文章で物語を執筆。お題の内容は、タイトルや書き出し、最後の1文、そのほか人物相関図や主人公の特徴などだ。例を挙げると、『5文字の世界』や『ハチマキだけしかない』というタイトル、「天動説も地動説も間違いだった。動いていたのは、天でも地でもなかったのだ。」「曲げちゃってもいいですか? 思いっきり曲げちゃっても?」という書き出しなど。どういう話になるのかな? と想像しながらページをめくるものの、ふたりはその予想を軽やかに裏切るどころか、私たちを見たことのない楽しい物語世界へと連れて行ってくれる。そこには、まさかの展開や、ちょっとホラーな結末、そして心震える物語が待ち受けている。


たとえば、又吉氏が出した「子供が作った泥だんごがこんなにも固くなることを誰も予想していなかった。」という書き出しのお題を受け、ヨシタケ氏は、とある組織に所属する男が主人公の物語を執筆。主人公が、恨みを持つ男との口論の最中、公園の砂場に転がっていた泥だんごを彼の顔に投げつけたことから、事態は思わぬ方向に。ヨシタケ氏の絵本には絶対に登場しない人物像と、書き出しの一文を見事に回収する結末に驚きつつも、笑ってしまう。「その本の主人公が、『本が好き』でした。これってどんな本でした?」というヨシタケ氏の投げかけたお題に対して又吉氏が書いた短編小説では、大好きな本を中心とした少年の心の旅が描かれる。物語世界に生かされた経験がある人や、孤独と向き合う瞬間があるすべての人に共鳴するこのお話は、又吉氏の創作に向かう決意も感じることができ、胸が熱くなる。


ふたりがお互いにお題を出し合うことで、自らの新しい引き出しを開けて創造性を解き放っていることがわかる。その結果、読者は、又吉氏、ヨシタケ氏の単著では読めない物語に出会うことが叶った。巻末には、物語にならなかったお題が掲載されているページもあり、こちらも読み応えがある。自分ならどんな物語が読みたいかな、書きたいかなと妄想を膨らませるのもまた楽しい。本への愛と創作の喜びが詰まった本書は、稀代の表現者ふたりの新しい側面に出会える、たまらなく贅沢な奇跡のような1冊。続編にも期待!
文=川辺美希