暇つぶしの怪談だったのに。静かな恐怖がじわじわと迫り、やがて現実と交わりはじめて…『無惨百物語~ある漫画家が見た怪異~』【書評】
公開日:2025/8/29

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】
『無惨百物語~ある漫画家が見た怪異~』(マルオ:著、黒木あるじ:原作/KADOKAWA)は、読み進めるほどに奇妙な違和感が積み重なるホラー漫画である。
漫画家の中森は、アシスタントたちとの作業通話で怪談を語り合うのが日課だった。単なる暇つぶしだったはずの怪談。それらが、いつしか滲み出すように日常へと浸透し、不穏な空気が物語全体を包み込んでいく。
原作は、実話怪談の名手・黒木あるじ氏による短編集「無惨百物語」シリーズ。本作で登場するゾッとするエピソードの多くは、一見平凡な日常から始まる。
たとえば、アシスタントの伊藤が語る「半年ごとに家族が入れ替わる隣家の話」では、隣に住む家族が半年ごとにまったく同じ家族構成の6人に入れ替わっていく、という奇妙な現象が描かれる。入れ替わるたびに、家族構成も人柄も寸分違わず再現されるのだ。
日常の平穏な風景とは明らかに異なる隣人らの様子に、背筋を冷たく撫でられるような感覚に包まれるだろう。
こうして怪談を重ねるにつれ、「ふとした異常」が少しずつ積み重なり、説明のつかない不安が物語を漂いはじめる。読者は何かがおかしいと感じながらも、それが何なのかを言葉にできない。その不気味な余白の残し方こそが、本作の醍醐味だ。
やがて物語が進むにつれ、登場人物たちの人間関係の不気味さが浮き彫りになっていく。中森の語る怪談はアシスタントたちの心に波紋を広げ、怪談の恐怖とは別の恐ろしさを生み出していく。
はたして、中森の話は本当に“怪談”なのだろうか?
派手に驚かせるのではなく、静かに精神の奥へと忍び込んでくるような恐怖を描いた本作。「恐怖とは何か」という本質に迫りながら、“語り”が現実を侵食していく不気味さを味わわせてくれる。