SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第50回「俺の言うことをきけ」
公開日:2025/8/27
「運動すると自分の体からスポーツマンオーラが出るからダサい」と。
いやこれ、まじその通りだと思った。しっかり痺れた。健康に気を遣ってちまちま運動なんかしないで、ありのままでいる方が間違いなくバンドマンだ。私がなりたいのは、スポーツ選手じゃないと。走ることが日課になっていた私に雷が落ちたのだ。
やっぱあの人最高だなア、って思った。やっぱあの人格好良いなア、って。
でも何故だろうか、翌日も私は近所を走っていた。敬愛するバンドマンの言葉に疑いはない、だってこれを書いている今現在でも「その通りだよ!」って心底思っているくらいだから。なのにどうしてだろうか、翌々日も私は「やっぱ説得力あるわ」って思いながら近所を走っていた。
行動原理は「資質が違う」という本質的なものに、本能的に気がつけたことからくる危機感だったのだと思う。「俺は俺」とか「私らしく」とかっていう甘っちょろいやつじゃなく、結構生々しいものだったのだろうと今になって思う。あとは大前提、野心ね。ありのままで大丈夫だったなら二十二、三で結果出してる。
もしも自分にその人と同じ器があったなら、寸分の疑いもなく運動をやめただろう。もしも自分にその人と同じ度量があったなら、純のまま生きることを選んだだろう。ただ悲しいかな俺は違う。その器量も度量もない。だとしたら、凄い人の言葉をそのまま受けて準ずることってかなりの悪手だ。格好良い言葉に陶酔して同じことしてたら、もはやそれまでだ。自らの資質というものを度外視して、「だから俺も」って人間になってしまったら、まじで救いようがないな、って思う。
あの人の言葉は間違ってないし、まじでかっこいい。ただ、そもそもの言葉が持つ正解と、その人が言葉にした正解は圧倒的に違う。
これは「運動」という一部にフォーカスを当てた話であるが、大きくスタンスの話であり、ファッション、趣味、生活など全てにおいて言える話であると思っている。
あなたはあなたで素晴らしい、なんてことが言いたいんじゃなくて、あなたはあなたでやることやらにゃ素晴らしくなれなくね? ってこと。くどいようだが、あくまで野心があればの話ね。そしてどだい「凄い人」には全く関係のない話。
ありのままに勝るものなんてないのよ。ただ「運動しろ」も「運動するな」も一緒。「好きな服を着ろ」も「似合うものを選べ」も一緒。「遊ばず働け」も「しっかり遊べ」も全部全部一緒。奴らは奴らの尺度で物事を発してるんだ。凄いやつは凄くないやつのことなんて考えてない。だから一度とは言わない、二度三度疑うべきだ。自分の頭を使ってしっかり考える、満額受け取るべきか、一部を抜粋すべきか、突っぱねるべきか。奴らが口にするのは決して最適解じゃない。
ということで俺の言うことをきいてほしい。人の言うこともきかないでください。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中