世界の片隅に生きる少女に訪れた魔法のような4日間を紡ぐ青春劇【レビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/9/9

雑誌『ダ・ヴィンチ』の人気コーナー「カルチャーダ・ヴィンチ」がWEBに登場!
シネマコーナーでは、目利きのシネマライターがセレクトする“いま観るべき”映画をピックアップしてご紹介します。

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年9月号からの転載です。

『バード ここから羽ばたく』
9月5日公開

監督:アンドレア・アーノルド 
出演:ニキヤ・アダムズ、バリー・コーガン、フランツ・ロゴフスキ 2024年イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ 119分 
配給:アルバトロス・フィルム 9月5日より新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国公開

●能天気な父と落書きだらけのぼろアパートに暮らし、やり場のない孤独を募らせていた少女ベイリー。草原で出会った奇妙な男“バード”のなかにピュアな何かを感じとり、彼の両親探しを手伝うことに……。

 長編デビュー作『Red Road(原題)』、2009年最良のイギリス映画と絶賛された『フィッシュ・タンク』、そして『アメリカン・ハニー』で3度、カンヌ国際映画祭審査員賞に輝いたアーノルド監督。国際的な評価とは裏腹に、日本では無名に近い俊英の最新作が待望のロードショー。

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 その日暮らしの父バグ、異母兄のハンターと暮らす12歳の少女ベイリー。友人のいない彼女は身の回りの風景や動物をスマホで撮影し、孤独を紛らわせていた。バグが3カ月前に知り合ったばかりの子連れの恋人、ケイリーと半同棲状態なのも気に入らない。しかもバグは次の土曜日に結婚式を挙げると宣言。そんななかベイリーの前に「両親を探している」という“バード”が現れる……。

 イギリスの社会派リアリズムの伝統を受け継ぎ、撮影をおこなう土地の人々を多く配役。プロの俳優にも事前に脚本すべてを渡さない一方、順撮り派の監督。今回も主演には、学校演劇の経験のみというアダムズをオーディションで見出している。瞳に知性を宿し、思春期の痛みや危うさを瑞々しく魅せる彼女に、冒頭から目が離せない。スクーターの父娘ふたり乗りシーンに頬が緩み、妖しく神秘的なバード役ロゴフスキとのケミストリーが心を鷲掴み。またベイリーの「友だち」を巡る兄妹の会話は、今作最大のサプライズギフトだ。

 『哀れなるものたち』の撮影監督R・ライアン(Rには「ロビー」というルビ)による自然光を活かした映像、キャラクターに合わせた音楽使いも味わい豊か。社会の片隅に生きる人々の厳しい現実をリアルに映しつつ、少女の想いにファンタジックに寄り添うマジカルな青春劇だ。

文=柴田メグミ

しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA
SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。

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