ネットラジオ発、テレビドラマ化も話題。廃屋で出会った異様な様子の清掃婦が導く際どい状況の正体とは【書評】
公開日:2025/9/23

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】
『禍話 SNSで伝播する令和怪談』(かぁなっき:原作、大家:漫画/KADOKAWA)は、SNS発の人気怪談ラジオ「禍話」を原作とした、初のコミカライズ作品だ。
物語の舞台はごく日常的な風景なのに、どこかおかしい。静かに「それ」が侵食してくる不穏な空気。ページをめくるごとに高まる違和感と、説明しきれない恐怖が広がり、最後にはすべての謎が解かれないまま、ぽつりと居心地の悪い余韻だけが残される。
「一体何だったんだろう……」読み終えた後、思わずページを遡って、細部を見直したくなる。その感覚こそが、この作品の真骨頂だ。
謎を明かさずに終わる構成は、もやっとした読後感を与えるが、それが逆に現実に起こり得そうな怖さを引き立てている。後味の悪さを狙った演出ではなく、答えのない怪異を描くことで、恐怖そのものではなく違和感を残すことで、読者の想像力を刺激する。読み終わったあとは何気ない日常にすら不安を感じてしまうのだ。
特に印象的なのは、「九死の夜」という一編。トイレを探して立ち入った建物で、地下に誘導する清掃婦と、「あなた今ね、かなり際どい状況にあるんですよ」と1階トイレを勧める謎の男に出会う。男の言葉に従って地下行きをやめた彼の前に現れたのは、異様な様子の清掃婦。なぜか名前を知っており、さらには個室の中まで追ってこようとする……。命からがら逃げ出した翌朝、彼が見たのは“立ち入り禁止”の看板だった——。
説明できない違和感と、じわじわ迫る恐怖。読み終えても「『それは何だったのか』という疑問が残り続ける、ゾクリとくる傑作だ。あの夜、建物の中にいた者たちは何だったのか。なぜ名前を知られていたのか。男性はなぜ助けられたのか……。その奇妙さにゾッとすると同時に、思わず考え込んでしまう。
SNSという現代の空気感の中で、じわじわと拡散されていく「令和の怪談」。その不気味さを、マンガという視覚表現で味わえる本作は、ホラー好きはもちろん、静かな恐怖を求める人にもおすすめしたい一冊である。
