山里亮太は“ほっとけない系”パーソナリティ リスナーにさらけ出す弱い心の内/ラジオはパーソナリティ〝次第〟①
公開日:2025/9/19
『ラジオはパーソナリティ〝次第〟』(宮嵜守史/ポプラ社)第1回【全5回】
「結局、ラジオはパーソナリティのものなんだよ」。AD時代、放送作家に言われたこの一言が忘れられない――。ラジオ番組の賛否を全面的に背負うパーソナリティ。その魅力や必要な能力、聴く人を味方につける技術とは? TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーで本書の著者・宮嵜守史。山里亮太、ヒコロヒー、ジェーン・スー、アルコ&ピースら計9組の人気パーソナリティとの対談を通してラジオパーソナリティとは何かを考えた一冊『ラジオはパーソナリティ〝次第〟』をお届けします。

ほっとけない人 南海キャンディーズ・山里亮太さん
山里さんはとにかく繊細という印象だった。薄いガラスのような。長崎のペコペコ鳴るビードロくらいのハート。反面、繊細だからこそ力が強くて声の大きな者以外に目を向けられる。ラジオパーソナリティとしてうってつけの性格でもあると言える。
幸せそうなカップルを妬み、成功してモテる男を嫉み、それに群がる女を憎む。かつて深夜ラジオのパーソナリティはリスナーのアニキ的存在が多かったが、山里さんはどちらかというと同輩というか、同じ価値観を持つリスナーの代弁者だ。
僕がプロデューサーとして加わった2012年は「山里亮太の不毛な議論」も3年目。山里さんが戦術を身に付け始め、そろそろ安定してきたか、くらいのタイミング。
だけど実際、安定なんてしてなかった。僕が番組に加わって少し経ったころ、全員が「このままじゃダメだ」と痛烈に地面にたたきつけられた放送があった。2013年4月の特別企画「ザキヤマ春のパン祭り! in 山里テラスハウスバースデースペシャル」だ。
山里さんの家にザキヤマ(アンタッチャブル・山崎弘也)さんがやってくる全編中継企画。部屋がめちゃくちゃにいじられ山里さんのリアクションが光るというもの。僕が番組に参加する以前の2011年にも同様の企画が放送された。そのときの反響も加味して成功を期待していたが、結果は真逆だった。前回同様、ザキヤマさんの部屋でのハチャメチャ感と山里さんの精度の高いリアクションで番組は一定の盛り上がりを見せた。ところがリスナーウケがよくなかった。
放送後、番組ハッシュタグでTwitter(現X)のタイムラインを追う山里さんは肩を落とし、しばらく立てないでいた。僕も心配してタイムラインを見るとスマホを持つ手が震えた。山里さんを本気で心配するリスナーの声が多くあったからだ。もちろんタイムラインには楽しんで聴いてくれたリスナーも大勢いた。だけど、楽しめていないリスナーも大勢いた。片付けを終えたスタッフを先に帰し、しばらく2人で沈黙の時間が続く。慰めの言葉を繰り出しても薄っぺらいだけでなんの意味もなかった。
何がいけなかったのか?
まず山里さんがリスナーからどう見られているのか分析できていなかった。仮にステージがあるとしたら今、山里さんは一般的な目線から見てどのステージに存在するのか。いじられてリアクションするようなステージには既にいなかった。
次に世の中が何を嫌い、何を好むのか、番組に何が求められているのか。痛みを伴うような笑いは全員が受け入れられる世の中ではないことをキャッチできていなかった。
全員で企画したことだけど、番組の責任者として重要なポイントを捉えきれていなかったことを猛省した。二度とリスナーと山里さんにあんな思いをさせたくない。
山里亮太というパーソナリティの強みはリスナーに心の内を全部さらけ出せるところだと思うし、そう信じたいとも思う。だけど冒頭に述べた通り本当に繊細ゆえ、リスナーにも我々スタッフにも、そして自分自身にさえも秘める部分を持っているような気もする。傷つかないために。
傷つきたくないから逃避することがある。だけどそんな面もリスナーは知っていると僕は思う。そう考えるとなんて幸せなラジオパーソナリティだ。アニキ系パーソナリティの逆、〝ほっとけない系パーソナリティ〞だ。この弱さも〝ニン〞なんだろうなぁ。山里さんは要所要所で脱皮を繰り返して強くなっている。人生のターニングポイントを「不毛な議論」を通してリスナーに初解禁して一皮むける。
印象的な脱皮回は、不仲だった相方、しずちゃんとの「M-1グランプリ」再挑戦を決めた回。2015年12月。山里さんも放送で話しているが、それまでは山里さんの口から出るしずちゃんの話はネガ100、ポジ0。僕は、お笑い芸人リスペクトが強かったので、お笑いコンビは、仲良くなくてもいいけど信頼し合っていてほしいと考えていた。なので山里さんによるしずちゃんへのネガキャンにはちょっと引いていたりもした。
ところが、しずちゃんがボクシングから身を引いて、次第にマイナス発言が減っていった。そして、「不毛な議論」が始まって以来、初めてしずちゃんをゲストに迎えることになった。
あいにく、しずちゃんは地方だったのでスタジオではなく、中継での出演。これまでお互いが思ってきたこと、感じてきたことを率直にぶつけ合い、結果、番組のエンディングで南海キャンディーズの2人は「M-1」再挑戦をリスナーの前で誓った。
スタジオで直に顔を合わせていた場合、ひょっとしたら違う結果になっていたかもしれない。お互い表情の見えない状況で話せたのが功を奏したのではないか。それってちょっとラジオとも通じるところがあると思っている。顔や姿が見えてないからこそ話しやすいし、聴く側も姿を表に出していないからこそ素直に、かつ、自分を失わずに受け取ることができる。